ハンガリー進出の中国系製造企業と最新動向

ハンガリーは中国系製造業の投資拠点として存在感を高めています。BYD、CATL、NIOをはじめとする大手がEVや電池工場を建設・拡張し、LenovoやWanhua Chemicalなども欧州市場向けの拠点を整備しています。投資規模は数億から数十億ユーロに及び、数千人規模の雇用が創出される案件も登場。政府の優遇策と地理的優位性を背景に、ハンガリーは中国企業にとって欧州展開の要衝となっています。

ハンガリーは近年、中国企業の製造業投資のホットスポットとなっています。特に電気自動車(EV)や電池関連分野でBYD、NIO、CATLといった大手が相次いで進出し、オルバーン政権も中国からの投資を「経済成長の不可欠な原動力」と位置付けています 。中央ヨーロッパに位置し自動車産業の労働力に恵まれたハンガリーは、税制優遇策も相まって、中国企業にとって欧州市場への戦略的な拠点となっています 。本記事では、ハンガリーに拠点を置く主な中国系製造企業について、所在地・製造品目・進出時期・最新の動向を整理します。

BYD(比亚迪)- EVバス&乗用車製造拠点を拡大

会社概要: 中国の大手EVメーカーBYD(Build Your Dreams、比亚迪)は、ハンガリー北部コマーロム(Komárom)で2017年に欧州初の電気バス工場を開設しました 。現在では電気バス・トラックを製造し、欧州各地へ約700台以上を供給しています。2025年には既存工場の拡張に乗り出し、生産能力を年1,000台超にまで3倍増強する計画です 。6月には新たな29,000㎡規模の増設棟の起工式が行われ、600人超の雇用創出も見込まれます 。また、BYDは南部セゲド(Szeged)に総額5億ユーロ規模乗用車組立工場を建設中で、2025年後半の稼働開始を目指しています 。同社にとって欧州初の乗用車工場であり、初期年産15万台・最大30万台体制を計画しています。しかしながら大量生産の本格化は2026年に遅延する見通しで、初年度の生産台数は数万台規模にとどまる見込みです 。さらにBYDはブダペストに欧州統括本部とR&Dセンターを設置予定で、ハンガリーを欧州戦略の中核拠点に位置付けています 。

CATL(宁德时代)- 欧州最大規模のEV電池ギガファクトリー

会社概要: 世界最大のEV電池メーカーCATL(寧徳時代)は、ハンガリー第2の都市デブレツェン(Debrecen)郊外に欧州第二の巨大電池工場を建設中です。投資額は約73億ユーロに上り 、敷地面積は約220ヘクタール(東京ディズニーランド約5個分)という圧倒的な規模です 。同工場はハンガリー史上最大の対外投資案件であり、メルセデス・BMW・Stellantis・VWなど欧州自動車大手に車載用電池を供給予定です 。2025年末までに商業生産開始が予定されており、2030年までに年100GWh(100万台分以上)の生産能力を目指します 。この計画が実現すればハンガリーはドイツに次ぐ欧州第2位のEV電池生産国となり、世界的にも有数の電池生産拠点となります 。一方、地元では環境リスクへの懸念から住民の反対運動や訴訟も起きています 。CATL側は「環境規制を順守し生態系保護に注力する」と表明し、最先端・環境配慮型の工場建設を強調しています 。

EVEエナジー(亿纬锂能)- BMW向け円筒型電池工場

会社概要: 中国の電池メーカーEVEエナジー(EVE Energy、惠州亿纬锂能)は、デブレツェンに大型円筒型(直径46mm)EV電池の新工場を建設中です。2022年にBMWと提携し、同社がデブレツェンに建設する次世代EV工場(Neue Klasseプラットフォーム採用)向けに電池セルを供給します 。EVEはこの契約を受け、2022年3月に欧州初の工場建設計画を発表しました 。投資額は約13億ユーロ、年間30GWh規模の生産能力を目指しており 、BMW新工場の稼働に合わせ2025年までの稼働開始を予定しています。EVEは中国国内市場ではCATLに次ぐ中堅ですが、本工場稼働により欧州でのプレゼンス拡大とTesla式の大型円筒電池分野で先行する狙いです 。建設地はBMW工場と同じデブレツェン工業団地内で、供給の効率化と地産地消による関税回避を図ります。

ハイテラ・サンウォーダ(欣旺达)- ニーレジハーザのEV電池新拠点

会社概要: 中国の電池大手サンウォーダ(Sunwoda、欣旺达)は、ハンガリー北東部ニーレジハーザ(Nyíregyháza)に欧州初のEV用リチウム電池工場を建設しています。2023年7月に発表された第1期投資額は約2億45百万ユーロで、2025年末までの稼働開始を目指しています 。同社は世界トップ10に入る電池セルメーカーであり、このハンガリー新工場は欧州市場攻略の第一歩です 。将来的には総投資規模15億ユーロ、1,000人超の雇用創出に拡大する計画で 、段階的に生産ラインを増設していく予定です。環境面では製造時の冷却水の90%を再生水で賄い、NMP溶剤等の排出基準も法規制をさらに下回る低水準に自主設定するなど、欧州の環境規制に対応した最新設備を導入する方針です 。2025年8月にはEUが本プロジェクトに対し2億6,400万ユーロのハンガリー政府補助金を認可しており、計画進展を後押ししています 。

セムコープ(恩捷股份)- デブレツェンのリチウム電池セパレーター生産

会社概要: セムコープ(SEMCORP、恩捷新材料)は、中国最大手のリチウムイオン電池用セパレーター(隔膜フィルム)メーカーで、デブレツェンに海外初の製造拠点を設けました。第一期工場(面積9.7万㎡)は当初2023年初頭の稼働予定でしたが建設に時間を要し、2025年6月にようやく試運転を開始したところです 。総投資額は約6億3,000万ユーロ(2期分合計)とされ 、4本の塗工ラインを含む年10億㎡規模のセパレーター供給能力を計画しています 。しかし試運転開始直後の環境モニタリングで一部排出値が許容超過となり、当局から16箇所中7箇所の排出源で操業一時停止命令が出されるトラブルが発生しました 。セムコープ側は決定を不服として即時に上訴しつつ、現在は規制順守に向け改善措置を進めています。また既に同規模の第2プラント建設計画も進行中で、第3・第4段階まで見据えた増設戦略を描いています 。欧米自動車メーカーからの需要増に対応すべく、品質管理と環境基準順守の両立が課題となっています。

華友コバルト(华友钴业)- Ácsに大型ハイニッケル正極材工場

会社概要: 華友コバルト(Huayou Cobalt)は、中国の大手電池素材メーカーで、ハンガリー北西部アーチ(Ács)に欧州初の高ニッケル三元系カソード(正極材)工場を建設します。2023年6月発表の投資額は約12.7億ユーロにのぼり 、年間10万トンのカソード材料を生産できるギガプロジェクトです 。同社はコバルト・ニッケル素材の精製技術に強みを持ち、中国国内外でEV電池向け素材の供給網を拡大中です。ハンガリー工場では欧州の電池メーカーや自動車OEM向けに高性能カソード材を供給する計画で、将来的に900人規模の雇用創出も見込まれています 。この投資により、ハンガリーのEV電池サプライチェーンが一段と強化され、原材料からセル生産までの一貫体制に寄与する見通しです。建設地のÁcsはBYDのバス工場やSKオン電池工場から近く、既存の自動車・電池クラスターとのシナジーも期待されています。

ハルムズ(Halms/华朔科技)- ミシュコルツとデブレツェンでEV部品生産

会社概要: ハルムズ(Halms Hungary、浙江華朔科技)は、EV用自動車部品メーカーであり、Teslaなどへの供給実績を持つ中国系企業です。2023年にデブレツェンで部品工場の建設を開始し、約4,000万ユーロを投じて電動車コンポーネントの生産拠点を立ち上げています 。さらに2025年には北東部ミシュコルツ(Miskolc)で大規模新工場を建設すると発表し、その投資額は約800億フォリント(2億ユーロ)に達します 。ミシュコルツ工場は3期に分けて整備され、1,000人以上の新規雇用が創出される見込みです 。外務貿易大臣シーヤールト氏によれば、ハルムズの新投資はハンガリーの経済競争力と技術水準を大幅に高めるものであり、同社によるデブレツェン工場との相乗効果も期待されています 。このようにハルムズは一企業でデブレツェンとミシュコルツの二拠点展開を図り、ハンガリーのEVサプライチェーンに深く組み込まれつつあります。

科達利(Kedali/科达利)- ゴド(Gödöllő)の電池部品工場を拡張

会社概要: 科達利(Kedali、深圳市科达利実業)は、リチウム電池用アルミ筐体・構造部品の大手メーカーです。韓国サムスンSDIなどに供給する目的でブダペスト近郊ゴドöllő(Gödöllő)の工業団地に進出し、2021年に第1期工場を稼働させました 。第1期では主に円筒・角型セル用ケースを製造し、2022年着工の第2期ラインは2023年内に稼働予定です 。さらに2025年6月には第3期拡張計画を発表し、追加で最大5,000万ユーロを投じて生産能力を増強する方針です 。新設ラインでは角型・円筒型電池向け精密部品の生産を強化し、建設期間は約24ヶ月を予定しています 。フル稼働時には年商1億ユーロ規模の売上が見込まれ、Tesla・Panasonic・ACC・LGなど欧米の顧客需要にも対応します 。同社のハンガリー拠点は、CATLデブレツェン工場への部品供給体制にも組み込まれており 、地場のEV電池エコシステムを下支えする存在となっています。

NIO(蔚来)- バッテリースワップ拠点で欧州展開を支援

会社概要: 中国の新興EVメーカーNIO(蔚来)は、ハンガリーをバッテリー交換ステーション(Power Swap Station)事業の欧州拠点と位置付けています。同社はブダペスト近郊のビアトルバージ(Biatorbágy)にNIOパワーヨーロッパ工場を設立し、2022年9月に初の交換ステーション製品を出荷しました 。この施設はNIO初の海外工場であり、交換ステーションの製造・アフターサービス、人材研修、充電設備のR&Dも担っています 。欧州5カ国で既に30箇所以上の交換ステーションが稼働(2023年末時点)しており、これらは全て同工場から出荷されています。NIOはハンガリー拠点を通じて2025年までに欧州に1,000基のステーション設置を目標としており 、現地生産により装置のEU認証やカスタマイズも円滑化しました。最新動向として、交換ステーション第3世代モデルの量産準備が進んでおり、将来的には充電スタンド製品の組立も計画されています 。NIOのこうした取り組みは、自社EVの販売のみならず電池交換インフラビジネスで欧州市場に食い込む戦略の一環です。

万華化学/BorsodChem(万华化学 – 博尔索德化学)- ハンガリー老舗化学工場の飛躍

会社概要: 万華化学(Wanhua Chemical)は、中国・山東省の化学大手で、2011年にハンガリーの老舗化学メーカーBorsodChem(ボルショドケム)を約12億3千万ユーロで買収しました 。これは中東欧地域における中国企業最大の買収案件となり、以降万華化学はBorsodChemを中核拠点として欧州市場に進出しています。同社の本拠地は北東ハンガリーのカジンツバルツィカで、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)やTDI(トルエンジイソシアネート)といったウレタン樹脂原料の生産で欧州有数の規模を誇ります。万華化学は買収後も継続投資を行い、近年ではアニリン工場の新設によるMDI原料の現地内製化や、大規模設備増強に対応した自家発電所(コージェネレーション)の導入を進めました 。その結果、BorsodChemは欧州最大級のTDIメーカーとなり、生産安定性とエネルギー効率が大きく向上しています。万華化学はこうした実績により2024年ハンガリー投資賞「生涯功労賞」を受賞し、中国資本として唯一の受賞企業となりました 。地元雇用も大幅に増加し、地域経済への貢献や環境・安全への取り組み(Responsible Care)でも高評価を得ています 。13年以上に及ぶ着実な投資を通じて、BorsodChemは名実ともに中国資本傘下で更なる成長を遂げています。

レノボ(联想)- ウッローのサーバー製造拠点と欧州展開

会社概要: 中国発のITメーカーLenovo(聯想、レノボ)は、ハンガリーを欧州生産のハブと位置付けています。ブダペスト近郊ウッロー(Üllő)に約5万㎡規模の自社工場を建設し、2022年6月に稼働開始しました 。同社初の欧州内製拠点で、主にデータセンター向けサーバー機器やストレージ、ハイエンドPCワークステーションを生産しています 。稼働開始1年で100万台以上の製品出荷を達成し、欧州・中東・アフリカ69か国の1,000社超の顧客に納入しました 。現地従業員は稼働開始から1年で20%増加し、ハンガリー政府から最多雇用創出企業賞も授与されています 。地理的利点を生かし、従来は中国から輸送していた製品を欧州域内で製造することで輸送距離とCO2排出を90%以上削減する効果も出ています 。また工場屋根への太陽光パネル設置や省エネ施策にも積極的に取り組み、スマート製造とサステナビリティを両立させた模範例として注目されています。レノボにとってウッロー工場は「Built in Europe, for Europe」を体現する旗艦拠点となっており、今後も生産ライン拡充や新製品投入が計画されています。

ズームライオン(中联重科)- 建設機械大手の欧州スマート工場計画

会社概要: 中国最大手の建設機械メーカーZoomlion(中聯重科)は、2025年2月にハンガリーでの新工場計画を発表しました。場所は西部のタタバーニャ(Tatabánya)近郊で、敷地面積3.5万㎡のスマート工場を建設し、高所作業用のシザーリフトやブームリフトなどの生産拠点とします 。この工場には2万㎡のテストエリアやサービス施設も併設される予定で 、最新のデジタル生産技術や環境配慮型プロセスを導入するとしています。Zoomlion社はオランダのCTP社と提携し10年間のリース契約でこのプロジェクトを進め、投資額は約1億ユーロ規模と報じられています(ハンガリー当局発表による)。同社共同社長の汪永祥氏は「現地生産により欧州顧客へのサービスと供給効率を高め、地域密着の事業展開を強化する」と述べています 。Zoomlionにとって欧州初の製造拠点であり、欧州市場で競合する米欧企業に対抗すべく現地生産・販売体制を築く狙いがあります。工場は2025年内着工予定で、稼働開始後は欧州全域への高所作業車供給拠点として機能し、同分野におけるハンガリーの産業ポートフォリオを拡大する見通しです。


各社それぞれ業種は異なりますが、ハンガリー政府の積極的な誘致策と欧州市場攻略を狙う中国企業の思惑が合致し、電気自動車、生産財、化学分野まで多彩な製造拠点がハンガリーに集積しつつあります。ハンガリーは中央欧州の地の利と既存の自動車産業基盤、そして政府の手厚い支援を武器に、中国企業にとって欠かせない欧州ゲートウェイとなりました。今後も新規投資や拡張計画が続くことが予想され、欧州製造業地図におけるハンガリーの存在感は一段と高まっていくでしょう 。

Reference:

https://theevreport.com/hungary-welcomes-chinese-ev-investments

https://www.sustainable-bus.com/news/byd-expansion-bus-production-hungary/

https://english.news.cn/20250628/55df82053e1148888609d0ae276a2780/c.html

https://www.cnenergynews.cn/hqsy/2025/02/25/detail_20250225201120.html

https://www.reuters.com/business/autos-transportation/byd-delay-mass-production-new-hungarian-plant-make-fewer-evs-sources-say-2025-07-22

https://www.climatechangenews.com/2025/08/14/hungarys-bet-on-ev-battery-boom-hits-bumps-in-the-road/

https://www.reuters.com/business/autos-transportation/exclusive-chinas-eve-supply-bmw-with-large-tesla-like-cylindrical-batteries-2022-08-17

https://hipa.hu/news/yet-another-leading-battery-manufacturer-chooses-hungary-as-investment-location

https://jw.ijiwei.com/n/817308

https://www.business-humanrights.org/en/latest-news/hungary-government-suspended-chinese-battery-parts-manufacturer-semcorps-plant-after-emissions-breach-limits

https://jw.ijiwei.com/n/866734

https://hipa.hu/news/yet-another-chinese-market-player-to-join-hungary-s-e-mobility-ecosystem

https://hungarytoday.hu/another-several-million-chinese-investment-in-hungary/

https://dailynewshungary.com/huge-chinese-car-factory-to-be-built-in-miskolc-hungary/

https://www.yicaiglobal.com/news/chinas-kedali-gains-after-revealing-plan-to-expand-hungarian-battery-parts-plant-for-usd575-million

https://www.electrive.com/2022/09/19/nio-produces-first-battery-swapping-station-in-hungary/

https://en.whchem.com/cmscontent/827.html

https://news.lenovo.com/one-year-lenovo-factory-builds-community

https://www.globalconstructionreview.com/chinas-zoomlion-to-build-factory-in-hungary