欧州で存在感を築いた10社から読み解く、「売る」より「根を張る」方法
欧州で強い日系設備メーカーには、ひとつの共通点があります。彼らは欧州を「輸出先」として見ていません。販売会社を置くだけでなく、製造、物流、技術検証、教育、さらには研究開発まで、事業の中枢機能そのものを欧州側へ移しているのです。FANUC、Yaskawa、OMRON、東京エレクトロンの公開情報を並べるだけでも、欧州での実績が単なる販売台数ではなく、供給体制、技術センター、トレーニング拠点、共同開発の厚みとして積み上がっていることが分かります。
本稿では、FANUC、Yaskawa、Daifuku、OMRON、Okuma、Makino、FUJI、Ishida、Tokyo Electron、SCREEN の10社を手がかりに、欧州で実績を築く日系設備メーカーの戦略を読み解きます。ここで重視するのは、市場シェアの順位ではありません。各社の公式サイトや公式リリース、公式ケーススタディから確認できる、現地拠点、技術支援、教育体制、導入成果、共同研究の深さです。そうして見ると、欧州戦略の本質は「営業拠点の設置」ではなく、「顧客の近くにどこまで機能を置けるか」にあると見えてきます。
供給を近づける企業は、信頼も近づける
この点で最も分かりやすいのが FANUC です。FANUC は、産業用ロボット、CNC(工作機械用数値制御装置)、ロボドリルやロボカットなどの工場自動化機器を製造するメーカーです。FANUC Europe は 1978 年設立、欧州本社は 1986 年からルクセンブルクに置かれ、Echternach に欧州製造センター、Contern に欧州物流センターを持ち、そこから 20 を超える欧州子会社を支えています。しかも同社の欧州での強みは、拠点数だけではありません。フランスの Joseph Martin では、1990 年に導入した最初の ROBOCUT がいまも稼働しており、FANUC はこの事例の中で、長寿命な装置と長期のサービス対応を自社の価値として示しています。欧州での信頼は、納入実績そのものより、「何十年使われ続けるか」で測られているのです。
Yaskawa も同じ方向を選んでいます。Yaskawa は、産業用ロボット、サーボモーター、インバーターなどのモーションコントロール機器を製造する自動化メーカーです。現在の Yaskawa Europe は、EMEA で約 2,000 人を抱え、21 カ国にオフィス、5 つの生産拠点を持つ体制を公表しています。さらに 2023 年には Hattersheim に新欧州本部を開設し、約 2,300 万ユーロを投じたこの拠点には、約 220 人向けのオフィスに加えて、1,150 平方メートルの欧州トレーニングセンターと 206 平方メートルのイノベーションセンターが組み込まれました。加えて、スロベニアの Kočevje で稼働する欧州ロボット工場は、同社自身が欧州戦略の中核と位置づける存在です。Yaskawa は欧州で、機械を届ける会社というより、欧州の製造業と一緒に自動化の基盤をつくる会社へ変わろうとしているように見えます。
Daifuku の欧州展開も示唆に富みます。Daifuku は、自動倉庫、コンベヤ、仕分け設備などのマテリアルハンドリングシステムを製造する物流・工場内搬送設備メーカーです。Daifuku は欧州での事業を 1986 年から展開してきたと説明しており、現在の Daifuku Europe GmbH はドイツを本拠に、英国、デンマーク、スウェーデンにも拠点を置き、販売、エンジニアリング、据付、アフターサービスを担っています。重要なのは、同社が自動倉庫や搬送設備を売るだけでなく、欧州案件を「運用改善のプロジェクト」として見せていることです。たとえば Portwest の事例では、Mini Load AS/RS の導入によりピッキング生産性が 10 倍になり、倉庫能力は倍増し、しかも人員削減ではなく再配置による高度化が実現したと紹介されています。欧州で求められているのは、省人化の物語ではなく、現場の働き方をどう良くするかという物語なのだと、この事例は教えてくれます。
欧州では、装置を売る前に「一緒に試す」
二つ目の戦略は、顧客の工程に深く入り込むことです。OMRON の欧州展開は、その典型です。OMRON は、センサー、PLC、ビジョンシステム、コントローラ、ロボットなどの産業オートメーション機器を製造するメーカーです。同社は Automation Center と Proof of Concept Lab(PoC) を EMEA 全域に配置し、これらがグローバルとローカルの開発、生産、販売ネットワークをつなぐと明示しています。しかも PoC 拠点は Budapest、Stuttgart、Barcelona、Hoofddorp、Dortmund、Tychy などに広がり、顧客は自社の生産条件を持ち込んで、ロボティクスやビジョン、自動化の実現性を事前に検証できます。これはショールームではありません。顧客の投資リスクを先に下げるための装置メーカー側の仕組みです。欧州で選ばれる企業は、売り込む前に「試せる場」を提供しているのです。
工作機械の世界では、Okuma が同じ発想をさらに濃く示しています。Okuma は、旋盤、マシニングセンタ、複合加工機などの CNC 工作機械を製造する工作機械メーカーです。Okuma Europe はドイツ・Krefeld に欧州本社を置き、同地に加えて Langenau、Parndorf に Tech Centre を展開しています。これらの拠点は、顧客が加工課題を持ち込み、機械、サービス、営業の各チームと一緒に改善策を詰める場として設計されています。さらに 2020 年に開設された Engineering Centre は約 1,200 平方メートル、最大 20 台の機械に対応し、ローカルな周辺機器や自動化ソリューションの実装、そして実践的な訓練までを担っています。欧州で工作機械を売るとは、機械仕様を提示することではなく、顧客工程に最適な生産の形を一緒に組み上げることだと、Okuma の拠点構成は物語っています。
Makino もまた、欧州を技術密着型の市場として扱っています。Makino は、マシニングセンタや放電加工機などの高精度加工機を製造する工作機械メーカーです。Makino は欧州で 4 つの technology center と 8 つの地域体制を持つと公表し、Kirchheim unter Teck の本部を中心に、イタリア、スロバキア、フランス、スペインへ技術拠点を広げています。さらに欧州組織は約 250 人規模で、マーケティング、営業、アプリケーションエンジニアリング、サービスに軸足を置いています。加えて同社は、アプリケーショントレーニングやサービス訓練を体系化し、「Certified Makino User」というかたちで加工現場の人材育成にも踏み込んでいます。欧州では装置そのものより、その装置を使いこなせる現場をどうつくるかまで含めて競争が起きていることが、Makino の体制からはっきり見えてきます。
「何台売れたか」ではなく、「何が変わったか」を示す
三つ目の戦略は、顧客成果を具体的に見せることです。FUJI EUROPE は 1991 年から Kelsterbach を拠点に欧州市場へ展開し、約 90 人体制で営業、サービス、スペアパーツ倉庫、Customer Process Support、物流・受注処理を担っています。FUJI は、電子基板に部品を実装する SMT マウンターなどの電子実装機を製造するメーカーです。さらに公式サイトでは、欧州に 300 社超の顧客基盤を持つとしています。注目すべきは、その実績の見せ方です。2025 年に公開された Productware の事例では、FUJI の NXTIII と AIMEXIII の導入後、年間生産量が約 99,000 枚から約 370,000 枚へ伸び、受注量も倍増したと報告されています。FUJI は、機械の高速性だけを語らず、顧客の生産能力、精度、柔軟性がどう変わったかを前面に出しています。欧州の B2B 市場で強いのは、スペックではなく成果で語れる企業です。
Ishida Europe も、この点で非常に欧州的です。Ishida は、計量機、包装機、検査装置などの食品向けライン機器を製造する食品機械メーカーです。同社は integrated line solutions を掲げ、計量、包装、検査を単体機ではなくライン全体として設計し、さらにアフターサービス、教育、スペアパーツ供給、遠隔診断まで一貫して支える体制を示しています。品質管理機器の多くを英国バーミンガムの製造拠点で EMEA 向けに設計・製造していることも公表しており、サポート面では 24 時間 365 日対応のエンジニア体制と、欧州・英国の倉庫からの部品供給を打ち出しています。実績の見せ方も明快で、英国 Faccenda Foods の事例では、同社システム導入後に product giveaway が約 30%削減され、作業者 1 人あたりの処理量も向上したと説明されています。つまり Ishida は「包装機メーカー」ではなく、「食品工場の歩留まり改善パートナー」として欧州でポジションを築いているのです。
欧州を、研究開発とライフサイクル支援の現場にする
四つ目の戦略は、欧州を研究開発の前線として使うことです。Tokyo Electron Europe は 1994 年設立で、2025 年時点の会社概要では、欧州 9 カ国に 5 社、18 拠点、800 人超の体制を持つとしています。Tokyo Electron は、コータ・デベロッパ、エッチング装置、成膜装置などの半導体製造装置を開発・製造するメーカーです。さらにアイルランド・Santry には 2022 年開設の Training Centre があり、4 つの tool training room と 3 つの classroom を備えた、欧州で唯一の TEL 同種施設と位置づけられています。そして何より重要なのは、ベルギーの imec との長期協業です。imec と TEL は 1995 年から協力関係にあり、2025 年には 2nm 以降のノード開発を見据えた新たな 5 年契約へと延長されました。欧州に営業所を置くのではなく、欧州の研究機関と一緒に次世代プロセスをつくる。この姿勢が、TEL の欧州戦略の重みを決めています。
SCREEN Semiconductor Solutions の欧州戦略は、さらにライフサイクル支援の色が濃いものです。SCREEN Semiconductor Solutions は、半導体洗浄装置を中心とする半導体製造装置を製造するメーカーです。SCREEN は 1978 年に最初のドイツ子会社をハンブルクに設立し、その後デュッセルドルフを経て、2016 年に Ismaning/Munich へ本社を移しました。現在の SCREEN SPE Germany は、EMEA 向けの販売、マーケティング、エンジニアリング、サービス組織であり、4 つの branch company と 5 つの主要ローカルオフィスを持っています。加えて同社の沿革には、1998 年にデュッセルドルフで日本国外初の半導体装置生産を始めたこと、2005 年に Munich Refurbishment Center と Dresden の主要サービス拠点を開設したこと、2017 年には 300mm ツール対応の新 refurbishment center へ拡張したことが明記されています。欧州市場で長く生き残るには、新品販売だけでなく、改修、再生、延命まで現地で回せなければならない。SCREEN の歩みは、その現実をよく表しています。
10社から見える、欧州戦略の本質
ここまでの10社を並べると、欧州で存在感を築く日系設備メーカーは、共通して五つの発想を持っているように見えます。第一に、供給とサービスを欧州の内側へ寄せること。第二に、ショールームではなく PoC と技術検証の場を持つこと。第三に、スペックではなく顧客成果で実績を語ること。第四に、教育とトレーニングを製品と同じくらい重い価値として扱うこと。第五に、共同研究や改修まで含めて、欧州市場に長く残る機能を持つことです。これらは別々の手法に見えて、実際にはすべて「顧客との距離を縮める」ための戦略に収束しています。
言い換えれば、欧州戦略の成否を分けるのは、製品が日本製かどうかではありません。欧州の顧客にとって、そのメーカーがどれだけ「現地の問題を、現地の時間軸で、現地の言葉で解ける存在」になれているかです。FANUC の長期稼働、Yaskawa の欧州本部と生産拠点、OMRON の PoC、Okuma と Makino の技術センター、Daifuku の運用改善型案件、FUJI と Ishida の成果提示、TEL の imec 協業、SCREEN の refurbishment。これらはすべて、輸出企業から欧州ローカルプレーヤーへ変わるための具体策でした。日系設備メーカーに学ぶ欧州戦略とは、結局のところ、売り先を増やすことではなく、欧州の産業の中に自社の機能を埋め込むことなのです。
参照元リンク
FANUC
https://www.fanuc.eu/eu-en/fanuc-europe
https://www.fanuc.eu/eu-en/product-overview
Yaskawa
https://www.yaskawa.eu.com/header-meta/about-yaskawa/About-Yaskawa
https://www.yaskawa-global.com/newsrelease/news/121803
OMRON
https://industrial.omron.eu/en/our-value/automation-center
https://industrial.omron.eu/en/services-support/services/proof-of-concept
Okuma
https://www.okuma.eu/tech-centres
https://www.okuma.eu/customer-care/engineering
Makino
https://www.makino.eu/en-us/about-us/global-overview
https://www.makino.eu/en-us/about-us/regional-tech-centers
FUJI
https://www.fuji-euro.de/en/about-us
Daifuku
https://www.daifuku.com/company/groupcompanies/europe-intralogistics
https://www.daifuku.com/solution/casestudy/case049
Ishida
https://www.ishidaeurope.com/en
https://www.ishidaeurope.com/en/support
Tokyo Electron
https://www.tel.com/about/gb/index.html
https://www.tel.com/news/topics/2025/20250616_001.html





