ハンガリーは近年、中国の製造業企業にとって欧州への有力な投資先となっています。2024年には、中国から欧州への対外直接投資の31%がハンガリーに流入し、この割合は2年連続で首位でした 。現在進行中の大型対中投資案件の総額は5.5兆フォリント(約160億ユーロ)に達し、64件もの大型プロジェクトが進行中です 。特に電気自動車(EV)関連の工場建設が目立ちますが、半導体や鉄鋼、電子機器など他分野への投資も散見されます。本記事では、2025年時点およびそれ以降に予定される主な中国企業のハンガリー投資案件を、分野・企業ごとにまとめて紹介します。
EVバッテリー産業:CATLとEVEの巨大工場
ハンガリー東部のデブレツェン市には、中国の電池大手CATL(寧徳時代)が欧州最大規模となるEV用リチウム電池工場を建設中です。投資額は約73億ユーロに上り、9,000人の雇用創出が見込まれています 。この工場は2025年に生産開始予定で、初期年産40GWhから将来的に100GWhへ拡大する計画です 。完成すればBMW、メルセデス・ベンツ、ステランティス、フォルクスワーゲンなどハンガリーで生産を行う主要自動車メーカーに電池を供給することになります 。地元では環境への影響を懸念する声もありますが、政府はインフラ整備や税制優遇など約20億ユーロ相当の支援を約束し積極的に誘致しました 。
また、デブレツェンには中国電池メーカーのEVEエナジー(億緯鋰能)も進出します。EVEは2023年に10億ユーロ超を投じて新工場建設を発表しており、欧州では初の製造拠点となります 。この工場は2026年までに稼働開始予定で、年間28GWh規模の円筒型電池セルを生産し、同市に建設中のBMWのEV組立工場に供給する計画です 。ハンガリー政府も約3,750万ユーロの支援金を拠出し、1,000人以上の新規雇用が創出される見込みです 。
デブレツェン周辺には、上記2大プロジェクトに呼応して多数の関連部品メーカーも集積しつつあります。たとえば、中国の**セムコープ(Semcorp)は同地にリチウムイオン電池用セパレーター工場を建設し、約1億8,400万ユーロを投資しました 。2024年には操業を開始しており、欧州の電池生産を支える重要部品を供給しています。また深セン科達利(Kedali)**もブダペスト近郊のゲデレー(Gödöllő)でEV用アルミ部品工場を建設し、4,000万ユーロを投じてサムスンSDIなどに部品を提供しています 。このように、中国勢は電池セル本体から部材までハンガリーに一大サプライチェーンを構築しつつあります。
電気自動車と電動バス:BYDの拠点拡大
世界最大級のEVメーカーである中国のBYD(比亜迪)も、ハンガリーで積極的な投資を進めています。最大のプロジェクトは、南部のセゲド(Szeged)に建設中のEV乗用車工場です。総投資額は約40億ユーロに上り、300ヘクタールもの広大な用地に生産拠点を構築中です 。BYDにとって欧州初の乗用車組立工場であり、2025年10月に操業開始予定です 。初年度の2026年は数万台規模で量産を開始し、当初計画の年産15万台に対して控えめな立ち上がりとなる見込みですが 、その後2027年以降に生産を増強し、最終的には年間30万台まで拡大可能な設計となっています 。このセゲド工場はBYDにとって欧州市場攻略の要となる戦略拠点であり、サプライヤー招集のイベントを開催するなど稼働に向けた準備が着々と進められています 。ハンガリー政府も用地造成や道路・上下水道の整備などインフラ面で1億2,200万~1億2,500万ユーロ規模の支援を約束し 、雇用創出と地域経済活性化に大きな期待を寄せています。
一方、BYDは既にハンガリー北部コマーロム(Komárom)に電気バス工場を保有しており、こちらの増強投資も行われます。コマーロム工場は2017年に開所したBYD初の欧州生産拠点で、当初は年間最大400台のバスを組立てる計画でした 。2025年6月、BYDはこの拠点に320億フォリント(約94百万ドル)を追加投資し、新工場棟を建設して年産1,250台(電気バスおよびトラック合計)規模へ能力を3倍に引き上げると発表しました 。ハンガリー政府も約31億フォリントの補助金交付で支援します 。増設工場では電動バスに加えトラックの組立も行う計画で、併設の研究開発ラボも新設される予定です 。この投資により、コマーロム拠点は欧州におけるBYD商用EV生産の中心となり、年間生産能力の飛躍的な向上が見込まれます。
さらにBYDは、欧州全体を統括する地域本部および研究開発センターをブダペストに新設する方針も明らかにしています 。中国製EVへの関税問題を抱える中、ハンガリー政府が中国への協調路線を打ち出していることもあって、BYDは同国に欧州戦略の軸足を置く姿勢です 。なお、他の中国EVメーカーではNIO(蔚来汽車)が2022年、ブダペスト近郊にバッテリー交換ステーション製造工場を開所しており、欧州向け設備の生産を開始しています。NIOの拠点は年間数百基規模の交換ステーションを製造可能で、これも中国勢としては初の欧州生産施設となりました。ハンガリーはこのように中国のEV・電池産業クラスターを積極誘致しており、ビクター・オルバン首相も「中国からの投資はハンガリー経済成長の不可欠な原動力となっている」と述べています 。
鉄鋼分野:製鉄所のグリーン化に向けた中国の支援
中国企業は自動車関連以外では、鉄鋼産業への協力投資が注目されます。ハンガリー最大の製鉄所であるドゥナウーイヴァーロシュ製鉄所(旧ダナフェール)は、2023年にイギリス系リバティ・スチール社が買収しましたが、その近代化プロジェクトに中国が深く関与しています。2024年5月、リバティ・スチール傘下の新生ドゥナウーイヴァーロシュ製鉄所と中国のCISDIエンジニアリング(中冶賽迪)は、同製鉄所をグリーン製鉄所へ転換する計画について契約を締結しました 。計画の柱は150トン級の最新型電気炉(EAF)2基の新設で、総工費は約13億ユーロに上ります 。この資金は中国輸出入銀行や中国国家輸出信用保険公司(Sinosure)によるローンで賄われ、ハンガリーと中国政府の後押しを受けています 。新電気炉の年産能力は合計150万トン以上と見込まれ、自動車産業向けの高品質鋼板を生産できる体制を整えます 。既に旧式高炉のコークス炉休止が開始されており、2025年以降に段階的な設備更新が進む予定です 。このプロジェクトが完遂すれば、ハンガリーは欧州初の“大規模グリーンスチール生産国”の仲間入りを果たす見通しであり、製鉄所のCO2排出は80%削減されます 。
中国側のCISDI社は製鉄プラント技術の世界的企業であり、今回の契約ではEAF設備の設計供給を担います 。また前述のSinosureによる13億ユーロの融資保証も画期的です 。これは一帯一路(BRI)構想の一環として、ハンガリーの「東方開拓」政策との協調が図られたものです 。オルバン政権は中国とのインフラ・産業協力にも前向きで、鉄道やエネルギー分野でも共同プロジェクトを模索しています。鉄鋼分野のこの大型投資は、中国の資金・技術提供によってハンガリー産業の脱炭素化を進める象徴的事例と言えるでしょう。
電子機器分野:レノボを筆頭とするハイテク投資
ハンガリーでは中国の電機・電子企業の存在感も増しています。代表的なのが、中国PC大手レノボ(Lenovo)によるブダペスト近郊ユッロー(Üllő)での製造拠点設立です。レノボは2022年6月に欧州初の自社工場をハンガリーで開所し、約82億フォリント(約2,470万ユーロ)を投じて最新鋭の生産施設を稼働させました 。この工場は3階建ての建物2棟・延床面積約5万㎡の規模を誇り、サーバーやストレージ装置、高性能PCワークステーションを欧州・中東・アフリカ地域向けに生産しています 。1日にサーバー1,000台・ワークステーション4,000台を組み立て可能な能力を持ち、開所時点ですでに1,000人以上の従業員がフル稼働していました 。パンデミック下の短期間(建設10ヶ月)で立ち上げられたこの工場は、2023年6月までのわずか1年間余りで累計100万台以上の製品を出荷するに至っています 。ハンガリー政府の投資誘致策(補助金・税優遇)も奏功し、レノボは高度なインフラと人材を評価して当地を選定したと述べています 。
通信機器分野では、中国の華為技術(ファーウェイ)が2019年にブダペスト郊外パーツ(Páty)に欧州供給センターを開設しました。これは中国国外で最大規模の同社物流拠点で、5G通信機器などを欧州各地へ供給するハブとなっています 。同センターは完全自動化された倉庫機能を備え、ハンガリーが中国ハイテク企業の欧州拠点として重要な役割を果たしていることを示す例です。
一方で、家電(白物)分野に関しては、2025年時点でハンガリーにおける中国メーカーの大規模な工場新設計画は目立っていません。中国の家電大手は過去に欧州企業の買収(例:ハイアールによるイタリア・キャンディ社、ハイセンスによるスロベニア・ゴレニエ社)を通じ市場進出を図っており、ハンガリー国内での生産拠点は現状限定的です。ただし今後、欧州向け生産最適地としてハンガリーが検討される可能性は十分あり、政府も電機・家電分野の投資誘致に意欲を示しています。
以上、ハンガリー各地で進む中国製造業投資の動向をまとめました。デブレツェンのような東部からブダペスト周辺、南部セゲドや北部コマーロムまで、国中に中国企業の大型プロジェクトが広がっています。EV用電池や自動車組立といった最先端分野から伝統的な鉄鋼業の再生支援、エレクトロニクス製造まで、その内容は多岐にわたります。ハンガリー政府は「東方」との経済連携を国家戦略に据え、中国からの投資を積極的に歓迎しています 。この結果、ハンガリーは欧州における中国製造業の一大拠点へと変貌しつつあり、2025年以降もその傾向は続く見通しです。
【参照情報】
https://www.vg.hu/nemzetkozi-gazdasag/2025/05/kina-magyarorszagot-szereti-a-legjobban
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/1201/5137faa0888a099f.html
https://cepa.org/article/xi-and-china-electric-cars-drive-into-hungary/
https://www.vg.hu/nemzetkozi-gazdasag/2025/05/kina-magyarorszagot-szereti-a-legjobban
https://dailynewshungary.com/hungarys-largest-steel-producer-gets-chinese-support-for-green-upgrade/





