欧州自動車産業

岐路に立つ欧州自動車産業ー100万の雇用を守るには?

EUが掲げる「2035年以降は新車すべてゼロエミッション化」──この目標を巡り、見直しを求める声が一部で高まる中、もし撤回すれば最大100万人の雇用が失われるとの試算が公表されました。報告をまとめたのは、欧州交通環境NGO「Transport & Environment」。EV移行は経済と雇用の破壊ではなく、むしろ再生のチャンスなのか? データとともに、その真意に迫ります。

自動車産業の未来が問われている

今、欧州の自動車産業は歴史的な転換点に立たされています。

EUが掲げる「2035年以降、すべての新車をゼロエミッション化する」という目標──つまり、ガソリン・ディーゼル車の販売を段階的に終了させ、電気自動車(EV)や水素車のみを認可するという方針は、世界の脱炭素の流れを象徴する政策の一つです。

しかし、近年の政治的な圧力や景気の不透明感を背景に、「この目標を見直すべきではないか」という声もEU域内で高まりつつあります。

EU政策に影響力を持つNGO「Transport & Environment」

その報告書を発表したのが、ブリュッセルに本部を置く環境NGO「Transport & Environment(T&E)」です。

T&Eは、欧州における交通・モビリティ・環境政策を専門に扱う独立機関で、EUの自動車CO₂規制やEV転換政策の議論において政策形成に直接影響を与える存在です。

政府、企業、メディアなどに対してエビデンスに基づいた提言を行っており、その発信は実際の法規制や助成制度にも反映されることが多くあります。

2035年目標を撤回すれば、100万人の雇用が失われる?

T&Eが2025年7月に発表した報告書「Europe’s Automotive Industry at a Crossroads(岐路に立つ欧州自動車産業)」では、2035年ゼロエミッション車目標を撤回した場合の経済的・雇用的インパクトを詳細に分析しています。

主なポイントは以下の通りです:

  • 目標が撤回された場合、2035年までに最大100万人の雇用が失われる可能性
  • 欧州自動車産業のバリューチェーン全体の価値創出が90億ユーロ縮小
  • 予定されていたバッテリー工場の3分の2がキャンセルに
  • 充電インフラ産業では1,250億ユーロ規模の損失が見込まれる

一方、目標を維持し、産業・雇用への政策支援を強化した場合には:

  • 生産台数は2035年までにコロナ前の水準(1,680万台)に回復
  • EVバッテリー分野で10万人、充電インフラ分野で12万人以上の雇用創出が見込まれる

日本にとっての“遠くて近い”話

この議論は、欧州内の話にとどまりません。

EUの自動車・環境政策は、すでに日本企業の現在と未来に影響を与え始めています。

日本の自動車メーカーや部品サプライヤーは、EU市場で多数の工場や開発拠点を展開しています。

EUがゼロエミッション政策を後退させれば、事業戦略の再構築やサプライチェーンの混乱を招く可能性も。

逆に、EV化を前提とした支援政策が加速すれば、日本企業にとっては新たな技術・素材・パートナーシップのチャンスとなり得ます。

このT&Eの報告書は、単なる環境主義ではなく、「規制と経済と雇用は一体である」という、現実的かつ戦略的な視点を教えてくれます。

参考リンク https://www.transportenvironment.org/articles/europes-automotive-industry-at-a-crossroads