欧州製造業各社のハンガリー進出:自動車から食品まで最新動向

ハンガリーは今や欧州製造業の新たな中心地として注目を集めています。ドイツのアウディ、メルセデス、BMWによるEV工場投資をはじめ、フランスのサンゴバンやネスレ、デンマークのレゴなど、欧州各国の大手企業が相次いで拠点を拡大しています。自動車、化学、食品、建材、機械など多様な分野で新規・追加投資が進み、持続可能な生産拠点としてハンガリーの存在感が一層高まっています。本記事では、欧州主要企業による最新の投資動向とその戦略的背景を紹介します。

はじめに:ハンガリーが製造拠点に選ばれる理由

中央ヨーロッパに位置するハンガリーは近年、欧州各国の製造業企業にとって重要な投資先となっています。地理的な中心性に加え、熟練労働力や安定したビジネス環境が評価され、ドイツやフランス、イタリア、スウェーデン、フィンランド、オランダ、オーストリアなど様々な国籍の企業が進出しています。政府も積極的に外資誘致を支援しており、法人税優遇や現金助成金、戦略的協定の締結などで投資を後押ししています。またEUの環境規制やサプライチェーン再編の動きも追い風となり、電気自動車(EV)やグリーン技術分野を中心に新工場や増産計画が相次ぎました 。その結果、ハンガリーへの外国直接投資額は近年記録的水準に達し、2022年には年間130億ユーロ超の過去最高を記録しています 。本記事では2025年までの最新動向に基づき、欧州系製造業各社のハンガリー展開事例を業種ごとに解説します。

自動車産業:ドイツ高級車メーカーを中心にEV投資が加速

ハンガリー製造業の柱である自動車分野には、ドイツをはじめ欧州の主要メーカーが軒を連ねています。同国には既にアウディ(独)、メルセデス・ベンツ(独)、BMW(独)のドイツ高級車3社すべてが生産拠点を構えており、これはドイツと中国以外ではハンガリーのみという特筆すべき状況です 。各社ともEVシフト戦略の中でハンガリー工場を重要視しており、大規模な設備投資を実施中です。

  • Audi(ドイツ)アウディ・ハンガリア(ジェール市): 1993年進出の老舗で、約1.1万人を雇用する同社最大級のエンジン工場です 。近年は電動化対応が加速し、2018年からEVモーター生産を開始。さらに2022年には**3億ユーロ(約420億Ft)**を投じて電動パワートレインの生産能力増強を発表しました 。この計画にはハンガリー政府から約2,100万ユーロの補助金が提供され、約500人の新規雇用創出も見込まれています 。実際、2024年には同社の電動ドライブ生産は年間約15万台規模に達し、全生産エンジンの約1割を占めました 。アウディは累計投資額も約129億ユーロに上り、ハンガリー自動車産業最大の投資企業となっています 。政府とも戦略協定を結び、研究開発機能の誘致や人材育成でも連携を深めています。
  • Mercedes-Benz(ドイツ)ケチケメート工場: メルセデスは2012年にハンガリー初の乗用車工場を稼働させ、現在約4,500人を雇用しています 。同社は2022年に10億ユーロ超の大型投資計画を発表し、ケチケメート工場にEV専用の新組立ラインと最新のボディショップを導入中です 。これにより2024年から新世代のMMAプラットフォームを使う高付加価値モデルの生産を開始し、続く2025年にはMB.EAプラットフォームを使う完全電気自動車の量産も世界に先駆けて始める予定です 。メルセデスは2030年までに乗用車を全面EV化する戦略を掲げており、ハンガリー工場はその中核拠点となります 。今回の開発で年産能力は30万台規模に拡大し、国内最大の自動車工場になる見通しです 。また同工場敷地内には車載バッテリー組立工場も併設されており、完成車工場と電池工場が同居する欧州唯一のサイトとしてハンガリーの戦略的重要性を高めています 。
  • BMW(ドイツ)デブレツェン新工場: バイエルン州発祥のBMWは、ハンガリー東部デブレツェンに完全新設のEV専用工場を建設し、2025年末からの稼働開始を予定しています。その総投資額は20億ユーロ以上に達し、新規雇用2,000人超を創出する計画です 。デブレツェンは同社にとって中東欧初の生産拠点であり、150,000台/年規模で新世代EV「Neue Klasse(ノイエクラッセ)」モデルを生産します 。2024年末には試作車の製造を開始し、2025年後半から本格量産に移行する予定です 。さらに工場内には500百万ユーロ規模の高電圧バッテリー組立工場も併設されることになり、電池と車両の一貫生産を実現します 。この追加投資に対してハンガリー政府は約135億フォリント(約34億円)の補助金交付を決定し、電池工場分だけで500人の追加雇用につながると発表しました 。デブレツェン誘致を巡っては周辺国や国内他都市との競合がありましたが、充実したインフラ(国際空港など)や産業人材基盤が評価され選定に至った経緯があります 。完成したデブレツェン工場は最先端の環境技術を備え、「BMWグループ世界で最も革新的なAI自動車工場」とも称されています 。
  • GKN(イギリス)フェルショーゾルツァ新工場: 自動車部品大手の英GKNもハンガリー北東部ボルショド県フェルショーゾルツァに大型のドライブシャフト新工場を設立しました 。投資額1億5000万ドル規模で、2023年に操業を開始し今後数年で1,500人規模の雇用に達する見通しです 。すでに初年度で23万本のハーフシャフト(駆動軸)を生産し、2025年までに年300万本のフル生産体制に移行予定です。主要納入先はハンガリー国内のBMW・メルセデス・スズキ・アウディ各工場で、従来はドイツから輸入していた部品の現地化により調達リードタイムを短縮します 。内燃機からEVまで幅広い車両に対応できる製品で、欧州サプライチェーン強化に貢献する戦略投資と言えます。

この他にも、ボッシュコンチネンタルシェフラーZFといったドイツ系自動車部品サプライヤーがハンガリー各地に生産拠点を展開しています。例えばコンチネンタルは国内7都市で6工場を操業し、総従業員8,000人超を雇用 。ハンガリー進出は1991年と早く、以降センサーや電子部品の製造拠点を継続的に拡大してきました 。同社は2018年にデブレツェンで電子部品工場の新設に着手し、1億ユーロ投資・450人雇用の計画を発表しています 。自動車産業はハンガリー経済の5~6%を担い15万人超を直接雇用する基幹産業であり、オルバーン政権も「電動化時代にも自動車大国であり続ける」ことを国家目標に掲げています 。こうした背景から、政府はEV・電池関連投資を次世代産業への橋渡しと位置付け、過去最大級の誘致合戦を繰り広げているのです 。

輸送機械・重工業:鉄道や航空宇宙、防衛分野まで多彩な展開

自動車以外の輸送機械分野でも、ハンガリーには欧州企業の進出が進んでいます。鉄道車両メーカーや航空宇宙、さらには防衛関連の製造拠点まで、多彩なプロジェクトが動いています。

  • Stadler(スイス)鉄道車両ボディ工場(ソルノク): スイスの鉄道車両メーカー、スタッドラーはソルノクにある車体製造工場を増強し、同社最大の生産拠点に位置付けました 。2023年発表の拡張計画に約4,500万ユーロ(約17億フォリント)を投じ、173人の新規雇用を伴う設備投資を実施しています 。この投資によりソルノク工場は年間200両超の車体を製造できる能力を備え、スタッドラー社のスイス本国やカナダ工場を凌ぐ世界最大の生産拠点となりました 。シングルデッキ車体に加えダブルデッキ(二階建て)車体の同時生産も可能となり、増大する欧州各国の鉄道需要に応えます。実際、同工場ではハンガリー国内向けを含む欧州向け客車・路面電車の車体を数多く生産しており、2023年には通算6,000両目の車体出荷を達成しています 。
  • Airbus Helicopters(仏・独)ヘリコプター部品工場(ジュラ): 欧州航空大手エアバスのヘリコプター部門は、ハンガリー南東部ジュラ市にヘリコプター部品の新工場を設立しました。2018年にハンガリー政府との協力で計画が発表され、2021年に稼働を開始したこの工場では、ヘリコプター用のメインローターブレード(主回転翼)や変速機向け高精度ギア部品などの製造を行っています 。開所当初は50人規模でしたが、その後の増産で従業員数は150人超に達し、現在は3交代制で操業中です 。製造された部品の表面処理工程も2023年末からはジュラ市内の協力工場で一貫実施されるようになり、ヘリコプター部品の100%国産化が実現しました 。このプロジェクトはハンガリー政府が推進する防衛産業振興策の一環でもあり、欧州サプライヤーを誘致して国内生産を取り入れる方針に沿ったものです 。エアバスはハンガリー軍向けにH225M輸送ヘリやH145M軽攻撃ヘリコプターを大量受注しており、部品現地生産によるオフセット契約として地域経済にも貢献しています 。
  • Rheinmetall(ドイツ)装甲車・軍需工場(ザラエゲルセグ): ドイツの防衛大手ラインメタルは、ハンガリー西部ザラエゲルセグに最新鋭の装甲戦闘車両工場を建設し、2023年8月に完成式典が行われました。同工場は独ハンガリー共同出資で建設され、まずハンガリー軍向けに受注した**「Lynx(リンクス)」歩兵戦闘車を生産します 。投資額は公表されていませんが、33ヘクタールの敷地に気候テスト室や射撃場も備えた欧州最先端の軍用車両生産施設となっており、ゆくゆくは350人規模の雇用が創出される見込みです 。2020年末の着工から約3年という記録的なスピードで建設され、2023年には早くも初号車がラインオフしています 。将来的には無人機や精密弾薬の組立ても行う計画で、イスラエル企業との合弁によるドローン生産ラインも併設される予定です 。ハンガリー政府は近年「自主防衛産業の再興」を掲げ、ラインメタル以外にもCzechOS(チェコ、弾薬工場)やHDT(ドイツ、火薬工場)など欧州防衛企業との合弁による国内生産プロジェクトを次々と始動させています。これにより、伝統的な自動車産業に加えて軍需・航空といった重工業分野**でもハンガリーが欧州の生産拠点網に組み込まれつつあります。

電子・電機・ハイテク分野:欧州勢の存在感

エレクトロニクスや電機分野でも、ハンガリーには多くの製造拠点があります。とりわけ家電・電子部品の分野では1990年代以降に外資進出が進み、現在も欧州系企業が存在感を示しています。

  • HMD Global(フィンランド)Nokiaブランドのスマートフォン製造: かつて携帯電話の欧州生産拠点であったハンガリーに、2023年新たな動きがありました。Nokiaブランドの携帯電話を製造・販売するフィンランド企業HMDグローバルが、欧州では初となるスマートフォンの現地生産をハンガリーで開始したのです 。2023年10月、5G対応の堅牢スマホ「Nokia XR21」の欧州生産モデルを発表し、セキュリティ重視の法人顧客向けに出荷を開始しました 。これにより、長らくアジア偏重だったスマホ製造に一石を投じ、EU域内での製造ニーズに応える事例となっています。HMDは具体的な製造場所を明らかにしていませんが、ハンガリー国内の提携工場で組立を行ったと見られます 。欧州委員会も重要産業の域内回帰を奨励しており、今回の動きはその流れに沿うものです 。かつてNokia本体は2000年代にハンガリー・コマーロムの大工場で携帯電話を生産していましたが、2014年までに閉鎖されていました。その意味で、HMDによる生産再開は“メイド・イン・ハンガリー”のスマホ復活とも言えます。
  • Bosch(ドイツ)自動車電装品・家電部品: ドイツのボッシュもハンガリーにおける最大級の雇用主であり、約14,000人を擁します。複数都市に工場を構え、自動車用の電子制御ユニットや電動工具のモーターなどを生産しています。特にブダペスト近郊の工場では車載用センサー製造が盛んで、欧州の生産ハブの一つとなっています。また近年では電動自転車向けモーターの生産ラインも立ち上げ、EV時代に向けた事業転換を図っています。ボッシュは1998年にハンガリー政府と最初の戦略的協定を締結した外資企業でもあり、以来研究開発センターの増強や大学との協業などにも積極的です。
  • Electrolux(スウェーデン)家電製造(冷蔵庫・掃除機): スウェーデンのエレクトロラックスは、一時ハンガリーを欧州の生産拠点として重視していました。1990年代後半にヤースベレーニに掃除機工場、ニーレジハーザに冷蔵庫工場を構え、一時は従業員数も数千人規模に達しました。しかし近年はコスト競争力などの理由から再編が進み、2021年までに冷蔵庫工場を閉鎖するなど縮小傾向にあります。ただし同社の投資はハンガリーの家電産業発展に寄与し、多くの地元サプライヤーを育てた側面もあります。現在も周辺国を含めたサプライチェーン上でハンガリー企業との取引関係が維持されています。

なお、電子分野では他にもオランダのNXP半導体が設計センターを置くほか、フランスのシュナイダーエレクトリックが配電盤の生産拠点を有するなど、欧州企業のプレゼンスがあります。もっとも、エレクトロニクス大量生産については韓国サムスンや中国ファーウェイなどアジア企業が大規模工場を構えているため、欧州勢の存在感は部品・専門機器分野に限られています。それでも、高付加価値の小規模製造やセキュリティ重視製品では欧州企業が**「欧州製」ブランドを武器に生産を拡大する余地**が出てきています。

化学・グリーンテクノロジー分野:持続可能性への欧州の取り組み

ハンガリーの化学工業分野でも、欧州企業が先進技術を持ち込んだ投資を行っています。特に再生可能資源やグリーン化学に関わるプロジェクトが注目されます。

  • Verbio(ドイツ)次世代触媒工場(グドッロー): ドイツのバイオ燃料メーカー、ヴェルビオの子会社XiMoは、ブダペスト近郊グドッローに世界初のグリーン触媒製造プラントを建設します 。投資額は2,770万ユーロで、2026年夏の稼働開始を予定しています 。この工場では、ノーベル賞受賞科学者リチャード・シュロック博士の研究成果を応用したオレフィンメタセシス触媒を生産します 。同触媒は石油原料を再生可能原料に置き換える画期的プロセスを可能にし、プラスチックや洗剤などの化学品製造において化石資源削減に寄与するものです 。XiMo社は2011年創業のハンガリー発スタートアップですが、2018年にVerbioグループ傘下に入りました 。新工場の製品はVerbioがドイツ・ビッターフェルトに建設中のバイオ化学品プラント(2026年稼働予定)で活用され、欧州内の持続可能素材サプライチェーンにハンガリーが組み込まれる形になります 。雇用規模こそ40人程度と大きくありませんが、高度技能人材中心の拠点となり、ハンガリーにおけるグリーンケミストリー分野の重要な一歩と評価されています 。
  • BASF(ドイツ)触媒コンバーター工場(コマーロム): ドイツ化学大手BASFは、2017年に北部コマーロムで自動車排ガス浄化用の触媒コンバーター新工場を開設しました。投資額約300億フォリント(約1億ユーロ)で、乗用車約300万台分の排ガス触媒を年産できる能力があります。製造された触媒は主に欧州域内の自動車メーカーに供給され、大気汚染防止に貢献しています。BASFはこの他、ブダペストにも樹脂加工品の生産拠点を持ち、ハンガリー国内で500人以上を雇用しています。同社はカソード材(電池正極材)の欧州生産拠点整備も進めており、今後バッテリー素材分野でのハンガリー展開も期待されています。
  • Knauf & Rockwool(独・デンマーク)断熱材製造: ドイツのクナウフやデンマークのロックウールなど建材メーカーも、ハンガリーに断熱材工場を構えています。ロックウールはシャールゴータルヤーン近郊にガラス繊維断熱材の工場を運営し、省エネ建材需要の高まりに応じて増産を行っています。クナウフも石膏ボード製造でハンガリー市場に参入しており、地元企業買収を通じて生産拠点を確保しました。欧州のグリーンディール政策により断熱需要が伸びており、両社とも2020年代に設備更新や増強投資を発表しています。

食品・生活消費財産業:地域市場と輸出拠点としてのハンガリー

食品・飲料や日用品といった消費財分野にも、多くの欧州系企業がハンガリーに製造拠点を置いています。地元市場向けのみならず、EU域内への輸出ハブとして機能するケースも目立ちます。

  • Nestlé(スイス)ペットフード工場(ビュック): スイスの食品大手ネスレは、ハンガリー西部ビュックに欧州最大級のペットフード工場(ネスレ・プラナ工場)を有しています。2010年以降に同工場へ集中的な再投資を行い、累計2,680億フォリント(約6.8億ユーロ)を投じて増強を続けてきました 。直近では2023年10月に900億フォリント規模の設備拡張が完了し、新たに2つの生産棟を増設 。これにより年間生産能力は約10万トン拡大し、年間30万トン近いペットフードを生産可能となりました 。同工場の製品の90%は輸出されており、ネスレ社にとって中東欧・欧州向けの重要な供給拠点となっています 。今回の投資で280人の新規雇用が生まれ、プラナ工場の総従業員数は約1,500人に増加しました 。ネスレはハンガリー国内に他にも菓子工場(シャレンツ、ディオーシュジョール)を持ち、いずれも国内外市場向け生産を強化しています。また再生可能エネルギー導入にも積極的で、シャレンツ工場では太陽光発電による自家電力化を推進しています。
  • LEGO(デンマーク)玩具工場(ニーレジハーザ): デンマークの玩具大手レゴは、ハンガリー北東部ニーレジハーザに主要な製造拠点を置いています。2008年に進出し2014年に最新工場が完成、以来生産能力を倍増させてきました。2023年からは1億3,800万ユーロ(約550億フォリント)を投じた包装・物流能力の大型拡張プロジェクトを進行中で、2025年までに包装棟2棟・包装ライン17本、手動倉庫やオフィス棟を新設します 。延床面積は3万平方メートル拡大し、工場全体で26万㎡超の規模になります 。この拡張により2023~2025年で最大300人の増員が予定され、季節要員を含めた総従業員数は4,300人を超える見込みです 。ニーレジハーザ工場は射出成形から彩色、組立、梱包までレゴの全製造工程をカバーする世界でも5拠点のみの工場であり 、今回の増強で世界第二位の規模のレゴ工場となりました 。地元経済への貢献も大きく、ハンガリー政府は約43億フォリント(約11億円)の助成金を提供してこの拡張を支援しています(2023年当時発表)。また新設備では太陽光パネルや地熱熱源を導入し、2028年までに天然ガス使用ゼロを目指すなど持続可能性にも配慮しています 。
  • Heineken(オランダ)ビール醸造所(ショプロン): オランダのビール大手ハイネケンは、2000年代にハンガリー市場に参入しショプロニ醸造所を買収しました。ショプロン醸造所は創業125年以上の歴史を持つ施設で、現在もハイネケン・ハンガリア社の主力工場として稼働しています。近年、同社は競争力強化のため累計20数億フォリント規模の設備投資を実施し、製造プロセスの効率化や環境対策を進めています 。例えば直近では5億4000万フォリントを投じてビール発酵タンクの更新や品質検査設備の近代化を行いました 。またショプロン産ホップの使用比率を高める試みも行われており、地元農家との連携による原料調達の地産地消化が進んでいます 。ハイネケン以外にも、オーストリアのレッドブルがエナジードリンク市場でハンガリーに流通拠点を置くほか、ドイツのヘンケル(洗剤・日用品)がトイレタリー製品工場を所有するなど、消費財分野でも欧州企業のプレゼンスが見られます。
  • Bonduelle(フランス)野菜加工工場: 冷凍・缶詰野菜で知られるフランスのボンデュエルは、ハンガリーに3つの食品加工工場(ベーケシュチャバ、ニーレジハーザ、ナジコロシュ)を展開しています。同社は2020年代に入ってから相次ぎ設備増強を行い、2025年には3拠点合計で1,240万ユーロを投じて冷蔵・倉庫容量の拡張プロジェクトを完了しました 。ハンガリー産のトウモロコシや豆類を原料に、欧州向け冷凍野菜製品を製造する体制を強化しています。ボンデュエルの各工場は地元農家との契約栽培に支えられており、農業分野にも波及効果を及ぼしています。

医薬・ライフサイエンス分野:ハンガリー伝統産業に欧州資本が投資

医薬品産業はハンガリーの伝統的基幹産業で、国内大手のリヒター・ゲデオンなどが存在します。一方、欧州資本も積極的に投資を行い、生産能力拡張や研究開発強化に取り組んでいます。

  • Egis(フランス)医薬品工場(ケルメンド): ハンガリー有数の製薬会社エギスは、1913年創業の老舗ですが現在はフランスの製薬大手Servier(セルビエ)グループ傘下にあります。同社は近年もハンガリー国内で継続的な増強投資を実施しており、2025年には西部ケルメンド製剤工場に3,750万ユーロ(約145億フォリント)を投じる大型投資計画を発表しました 。このプロジェクトでは固形剤(錠剤)プラントと製剤プラントの近代化、および倉庫容量の拡張が図られます 。ハンガリー投資公社(HIPA)の支援の下で実施される計画で、世界100か国以上に供給する製剤・有効成分の需要増に対応する狙いです 。エギスは2014年以降だけでもHIPAの助成下で複数の設備投資を行っており、特にケルメンド工場は同社の**完成薬生産の約60%**を占める主力拠点に成長しました 。過去10年間で抗がん剤製造棟の新設など高度な生産技術の導入も続けられています 。エギス全体では従業員4,000人超、製品650種以上を展開し、2023-24年度だけでも5,000万ユーロを研究開発に投じるなど、ハンガリー発グローバル企業として成長を続けています 。
  • Sanofi(フランス)医薬品・ワクチン製造: フランスのサノフィも、ハンガリーに複数の生産拠点を保有しています。サノフィは1990年代にハンガリーの製薬会社Chinoin(ヒノイン)を買収し、現在はブダペストとミシュコルツ近郊に医薬品原薬工場や製剤工場を構えています。とりわけブダペスト4区にあるウーイペシュト工場はサノフィ・グループ内でも重要な生産拠点の一つで、抗凝固薬や糖尿病薬の製剤を大量生産しています。同社は近年、生産プロセスのデジタル化や環境対応に向けて数千万ユーロ規模の投資を行い、省エネ設備や排水処理能力の向上を進めています。またサノフィはハンガリー政府との間で戦略協定を締結しており、新型コロナウイルスワクチン製造時にはハンガリー拠点が欧州供給チェーンの一翼を担いました。
  • Novartis(スイス)R&D拠点拡充: スイスのノバルティスはハンガリーに製造工場こそありませんが、2023年にブダペストに中東欧地域のハブとなる新たな創薬研究開発センターを開設しました 。高度専門職300人規模のセンターで、創薬の基礎研究から各国治験の統括まで担う計画です。ノバルティスは既にジェネリック医薬品部門サンドの生産拠点をオーストリアからハンガリーに移管する動きも見せており、今後製造面でも関与が強まる可能性があります。

おわりに:ハンガリー進出がもたらす経済的意義と展望

以上見てきたように、ハンガリーには欧州各国の製造業企業が幅広い分野で進出し、近年その動きが一段と活発化しています。自動車産業ではドイツ勢を中心にEV化対応の大型投資が進み、年間100万台規模の乗用車生産国へと成長を遂げつつあります 。鉄道や航空といった分野でも最先端工場が建設され、食品・医薬などの生活産業でも地域拠点としての存在感を示しています。これら外資製造プロジェクトの誘致により、ハンガリー政府は過去10年間で累計170,000人分の雇用創出を実現しました 。特にオルバーン政権は「電動化」と「サステナビリティ」をキーワードに掲げ、EV・電池とグリーン技術への投資を国家戦略と位置付けています 。政府系投資促進機関HIPAの支援の下、年間100件を超える投資案件が進行しており、その資本流入額はここ2年連続で100億ユーロ超と過去最高水準に達しました 。一連の欧州企業の進出はハンガリー産業の高付加価値化と輸出競争力強化にも寄与しており、中央欧州における**「欧州の製造ハブ」**としてハンガリーの地位を一層高めています。

他方、巨額の投資誘致には環境負荷や人材確保など課題も伴います。とりわけEV電池分野では中国系企業進出も相まって環境影響への懸念が地域社会から上がっています。しかし政府はEU規制に沿った環境基準順守を企業に求めつつ、必要なインフラ整備にはEU基金も活用し対応を進めています。例えばデブレツェンではEUの地域開発基金を活用して産業団地の上下水道・電力網を強化し、BMW工場の立ち上げを支えました。今後もEUのグリーンディール政策に合致したプロジェクトには補助金や融資の活用余地があり、官民連携で持続可能な発展を図ることが重要です。

総じて、ハンガリーにおける欧州系製造業の存在感は2020年代半ばにかけてますます高まっています。欧州連合の産業戦略やサプライチェーン再構築の流れの中で、ハンガリーは地政学的にも魅力的な拠点であり続けるでしょう。電動化とデジタル化という産業変革期にあって、ハンガリーは欧州企業にとって「新たな成長フロンティア」となっているのです。その動向は今後もビジネス関係者にとって目が離せないものと言えます。