加速するポーランドへの海外製造業投資

2025年以降、ポーランドではEV電池、再生可能エネルギー、半導体、消費財など多様な分野で海外製造業の投資が加速。EU規制やニアショアリング需要を背景に、欧州製造ハブとしての存在感を高めています。

ポーランドは近年、欧州における製造業の投資先として存在感を高めています。海外製造業による大規模投資プロジェクトが相次ぎ発表されました。自動車(とりわけ電気自動車)、EV電池、再生可能エネルギー関連機器、電子機器、消費財、食品など幅広い分野で、欧州連合(EU)の環境規制やEVシフト、サプライチェーンの見直し(ニアショアリング)の流れを背景に、世界各国の企業がポーランドに生産拠点を新設・拡張しています。本記事では、その最新動向と具体的なプロジェクト事例を分野別に整理し、全体のトレンドや背景を解説します。

EV・電池関連産業への大型投資

欧州で進む電動化の潮流を受け、ポーランドには電気自動車(EV)や電池のサプライチェーン構築に向けた巨額投資が集まっています。例えば2025年5月、アメリカの電池素材メーカーAscend Elements社は、ポーランドにリチウムイオン電池の正極材(前駆体、pCAM)工場を建設する計画を発表しました 。投資額は約12億5千万ドル(約50億ズロチ)に上り、ポーランド政府はEUの「一時的危機・移行枠組み(TCTF)」に基づき最大12.2億ズロチ(約3.2億ドル)の補助金を提供する方針です 。これは同国開発省が過去最大級の補助金と位置付ける戦略案件であり、ポーランド史上最大規模の米国製造業投資の一つにも数えられます 。Ascend社はこの新工場で独自のリサイクル技術を用いてニッケル・マンガン・コバルト系の正極材を生産し、EV電池の欧州供給網強化と循環型経済に貢献する計画です 。具体的な立地は明らかにされていませんが、同社はすでにポーランド国内の建設候補地を特定済みとされています 。稼働時期は明言されていないものの、北米ケンタッキー州で建設中の同種工場が2026年稼働予定であることから、ポーランド工場も2027年前後の稼働を目指しているとみられます。

また、電池材料では中国・韓国資本のNingbo Ronbay New Energy社(容百科技)による大型投資も注目されています 。同社は英国JM社が着工していたポーランド・コニンの正極材プラントを取得し、総額10億ユーロ超を投じて本格稼働させる計画です 。2024年時点の発表によれば、600~800人規模の雇用を創出し、第一期工事を2025年末までに完了、2026年から年間2万5千トン規模で正極材料を生産開始する予定とされています 。このプロジェクトは、欧州におけるEV電池材料の安定供給源となることが期待され、ドイツ・ロックテック社からの水酸化リチウム供給と合わせ「欧州版バッテリー・サプライチェーン」の一翼を担う戦略的投資です 。

韓国からも関連投資が進行中です。**POSCO International社(韓国)は、ポーランド南西部オポーレ県ブジェグ市に電気自動車向けモーターコア(**駆動用モーターのステーター・ローター)工場を建設しています 。2024年6月に起工したこの工場は、敷地面積10万平方メートルに及び、総投資額は3億6千万ユーロ(約530億円)規模 。まず1期工事に1億8千万ユーロを投じ約200人を雇用し、将来的に年120万台分のモーターコアを生産する計画です 。生産品は主にヒョンデ・起亜自動車が欧州(チェコ・スロバキア)で組立てるEV向けに供給される見込みで、現地生産化により物流コスト削減や調達安定化を図ります 。EUの域内調達規則や将来的な関税対策の観点からも、韓国勢がポーランドでEV部品を生産する意義は大きいと言えます。

さらに、電子機器分野では台湾のCompal Electronics社がシロンスク県チェラヂュに自動車エレクトロニクス工場を建設中です 。投資額は約5,400万ユーロ、従業員数は約50名規模と比較的小さいものの、車載電子制御装置などを生産する拠点であり、台湾企業による2年ぶり2件目の製造業投資と報じられています 。高度に自動化された生産ラインであるため雇用数は限定的ですが、高い付加価値を持つ製品供給拠点として注目されています。

このように、ポーランドには電池素材からモーター部品、車載エレクトロニクスに至るまでEVバリューチェーンの各段階に海外勢の投資が相次いでいます。背景には、2035年までのガソリン車販売禁止を掲げるEUの戦略や、電池の域内生産比率を高めようとする規制動向、そして世界的なサプライチェーン再編があります。ポーランド政府および投資庁(PAIH)も電動モビリティ関連を「戦略分野」と位置付け誘致に注力しています 。豊富な技術人材や立地条件に加え、特別経済区での税優遇や補助金といった投資インセンティブも奏功し、欧米やアジア各国の企業が同国への生産移転を加速させているのです。

再生可能エネルギー関連の製造拠点誘致

ポーランド政府は再生可能エネルギー分野の産業育成にも積極的で、欧州グリーンディールに呼応する形で海外企業の工場建設を支援しています。その象徴的な例が、世界最大規模の洋上風力タワー工場プロジェクトです。2025年5月、スペインの風力タワーメーカーWindar Renovables社(ウインダー)のポーランド子会社が、同国北部シュチェチン港で大型洋上風車タワー製造工場の起工式を行いました 。ポーランド政府はこの計画に対し約2億3千万ズロチ(約5,400万ユーロ)の支援金供与を決定しており 、民間投資分を合わせた**総事業費は約8億80百万ズロチ(約300億円)**に達します 。新工場はシュチェチン港内のオストルフ・グラボフスキ島に広大な17ヘクタールの敷地を占め、完成すれば年間最大500本分のタワーセクション(約100基分の洋上風車タワー)を生産できる能力を備えます 。直径10メートル・高さ50メートル・重量450トン級にも及ぶ巨大な鋼鉄タワーを製造・出荷するため、港湾に隣接した立地が選ばれました 。2026年の操業開始を目指しており、直接雇用だけで約450人の新規雇用創出が見込まれています 。開所式に出席したパシク開発技術相は「この投資はポーランドと欧州のために安価でグリーンなエネルギーを生み出す一助となる」と述べ、同国初の洋上風力発電事業に向けたサプライチェーン整備に意欲を示しました 。

シュチェチンは洋上風力関連産業ハブとして脚光を浴びており、Windar社のタワー工場だけでなくデンマークの風車大手Vestas社も同地に新工場を設けています。Vestasは2023年にシュチェチン北部の用地を取得し、洋上風力タービンのナセル(発電機ハウジング)組立工場を建設しました 。この工場は2024年後半から稼働を開始し、600~700人規模の雇用を生み出す見通しです 。さらに将来的にはブレード(羽根)生産工場の建設も計画されており、2026年頃までに操業開始予定と報じられています 。これら複数の案件により、ポーランド北部はバルト海洋上風力の製造拠点として大規模集積が進む見込みです。欧州全体の洋上風力市場拡大に対応し、地理的に北海・バルト海に近いポーランドに生産を置くことで、物流コスト削減や欧州内需要への迅速対応が可能になります。加えて、EUの域内調達推進や現地雇用創出の観点からも、各社にとってポーランド進出は戦略的メリットが大きいといえます。

ハイテク・半導体分野への進出

ポーランドは「欧州の半導体バックエンド生産拠点」としての期待も高まっています。Kearney社の調査によれば、ポーランドはチップのテスト・パッケージングといった後工程拠点として欧州で最も魅力的な国にランクされています 。この優位性を象徴する投資案件が、前述のAscend Elementsによる電池リサイクル資源活用型工場のほか、MEP Solutions社のプロジェクトです。イスラエル系とも報じられるMEP Solutions社は、半導体工場向けモジュール部材を製造する新工場をグダンスク市に建設し、2025年稼働開始を予定しています 。投資額は約2,000万ユーロ、従業員は約60名と報じられており 、クリーンルームやデータセンター、原子力関連施設向けの「4D FAB IN A BOX®」と呼ばれるモジュール製品を生産するとのことです 。グダンスクは高度なエンジニア人材や港湾インフラに恵まれ、西欧市場にも近接することから、同社は進出先にトリシティ(三都市圏:グダンスク・グディニャ・ソポト)を選定しました 。この誘致にはポーランド投資貿易庁のテルアビブ海外拠点も深く関与し、投資交渉を支援したと伝えられています 。ポーランド政府・自治体による積極的な誘致策が功を奏し、同地域には他にも韓国SKハイニックスのR&Dセンターや、米Intelのポーランド支社(R&Dセンター)など、半導体関連の拠点集積が進みつつあります 。

一方で、大規模半導体投資の誘致競争の難しさも示されました。米Intel社は当初、ポーランドに半導体組立工場を新設する構想を検討していましたが、2025年に入り計画を撤回しています(巨額補助金の提供が見込めなかった等の要因が指摘されています) 。最終的にIntelはドイツや他国での拠点拡充を選択し、ポーランドでの新工場建設は実現しませんでした。しかし、これは裏を返せば欧州各国間の誘致競争が激化している証左であり、ポーランド政府も投資インセンティブ拡充などさらなる誘致策に乗り出しています。ポーランドは労働コストや土地の優位性に加え、質の高い技術者層とEU加盟国としての法制度安定性を武器に、今後も半導体・電子分野の投資誘致に力を入れる方針です。

生活消費財・食品分野の投資動向

ハイテク産業だけでなく、日用品や食品といった消費財分野でも海外企業によるポーランド拠点の増強が見られます。大手化粧品メーカーの独Beiersdorf社(バイヤスドルフ)は、2025年6月にポーランド・ポズナン工場の大規模拡張を完了したと発表しました 。同社はNIVEA(ニベア)ブランドで知られ、ポズナンでは約100年にわたり生産を続けてきましたが、近年のグローバル需要増に対応するため3億ユーロを投じて生産能力を2倍に増強しました 。新設された6つの自動生産ラインと最新の微生物試験ラボにより、年間5億個のスキンケア製品を製造できる体制となり、200人以上の新規雇用も生まれています 。ポズナン工場は同社グローバル生産ネットワークの中核拠点の一つに位置付けられ、ここからニベアやユーセリン等の製品が世界100か国以上に供給されるとのことです 。同社CEOは「この投資は変化の激しい市場環境における供給レジリエンス強化策であり、将来の成長と持続可能性へのコミットメントでもある」と述べ、ヨーロッパ市場向け供給能力とサプライチェーン強靭化の狙いを強調しました 。

食品分野では米PepsiCo社がポーランドに建設した新工場が話題となりました。ポーランド南西部ドルヌィ・シロンスク県に建設されたスナック菓子工場は、投資額約10億ズロチ(約2.4億ドル)と同社欧州最大級の設備で、2023年末に完成・稼働を開始しました 。ここではポテトチップス「Lay’s」やトルティーヤチップス「Doritos」などを製造し、約450人を地元採用しています 。同工場は再生可能エネルギー利用や水資源循環など持続可能性を追求した「ヨーロッパで最も環境配慮型の工場」と称され 、最新の自動化倉庫も備えた次世代施設です。ペプシコはこの投資により欧州市場向けスナック供給能力を大幅に引き上げるとともに、環境規制に適合した生産モデルを構築しています。加えて、ポーランドはジャガイモなど農産資源が豊富であることから、原料調達面でも地の利を活かした生産拠点となっています。

この他にも、スウェーデンの家具メーカーIKEAによる木工家具工場ドイツの家電メーカーによる製造拠点など、過去からポーランドは労働力と市場アクセスの利点から多くの消費財・耐久財メーカーを引き寄せてきました。2025年以降もその流れは継続・加速しており、世界的なインフレや地政学リスクの中で製造コストを抑えつつEU域内市場への安定供給を図る戦略として、ポーランド拠点の重要性が再評価されています。

まとめ:ポーランドにおける海外製造投資の戦略的背景

以上のように、ポーランドでは2025年以降、様々な国籍・業種の製造業による投資案件が本格化しています。その戦略的背景には大きく三つの潮流が読み取れます。

第一に、EUの環境規制強化と産業政策です。EVシフトや再生可能エネルギー拡大に伴い、電池や部材の欧州内生産が求められるようになりました。ポーランドはその需要に応える形で電池素材・EV部品・風力発電設備の工場誘致に成功しています。欧州委員会のネットゼロ目標や各種補助制度(例えば欧州電池同盟やチップ法など)も追い風となり、グリーン分野の投資が加速しています 。域内調達比率の要請やカーボンプライシングの導入も、海外企業にとってポーランド現地生産を選択する誘因となっています。

第二に、**地政学リスクとサプライチェーン再編(ニアショアリング)**です。世界的な物流停滞や米中対立の長期化を受け、多くの企業が生産拠点の分散・近接化を模索しています。東欧最大の市場であるポーランドはEU内に位置しながら人件費や用地コストが比較的低いため、中国や東南アジアから一部生産を移管する動きが顕著です 。台湾・中国・韓国企業の進出事例からも、アジア圏メーカーが欧州市場向け製造の「近場化」を図っていることが分かります。ポーランド政府も各国との経済協力強化や在外拠点による投資誘致に努めており 、その成果が表れています。

第三に、ポーランド自身の投資環境整備と市場ポテンシャルです。近年のポーランド経済は堅調で、政府試算では2025年の投資総額が6500億ズロチ(約19兆円)を超えるとも言われます。政府・自治体は道路・港湾などインフラ投資を進め、特別経済区による税制優遇や補助金交付など投資誘致策を拡充しています 。また、ポーランド国内市場も人口約3800万人を抱え中東欧で最大級であり、労働力も理工系人材を中心に質量ともに充実しています 。こうしたビジネス環境の良さが海外企業の長期投資を支えています。

総じて、ポーランドにおける海外製造業の投資案件は欧州産業地図の再構築とも言える動きを示しています。電動化・グリーン化に向かう欧州のニーズを背景に、各国企業がポーランドでの生産基盤づくりを加速しており、その波及効果として地域経済や雇用創出も大きく寄与する見通しです。今後も発表される新規プロジェクトに注目しつつ、ポーランドが欧州製造業の重要拠点としてさらに台頭していく様子を見守りたいところです。

Reference

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https://www.foodbev.com/news/pepsico-opens-its-most-sustainable-factory-in-europe