欧州製造業における新規投資・拡張動向まとめ

欧州製造業は減速感が語られることが多いが、2025年後半から2026年初頭にかけての投資動向を見ると、必ずしも一様に不調とは言えない。ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアといった中東欧諸国では、電気自動車(EV)や電池、防衛、半導体、消費財といった分野で新規投資や生産拡張が相次いでいる。本稿では、各国で発表された具体的な投資案件をもとに、欧州製造業の中で依然として勢いを保つ産業・地域の実像を整理する。

ハンガリー:

  • 中国EVEエナジー: デブレツェンでは、中国EVEエナジー傘下のEVE Power社が約4,000億フォリント(約10億ユーロ)の投資でBMW向け電池セル工場を建設中です。2026年前半の生産開始に向け、技術者やエンジニアなど約400人の採用キャンペーンを開始しました 。地域の労働力を活用し、長期的な運営体制を整備する計画です。

https://debrecen4u.hu/eve-power-launches-recruitment-campaign-to-find-400-new-employees/

  • ZF: ドイツの大手サプライヤーZFグループはデブレツェンに約100億フォリント(約2,600万ユーロ)を投じ、新工場でBMW電気自動車向けの前後車軸モジュール生産を立ち上げます 。ハンガリー政府も約10億フォリント(約263万ユーロ)の支援を行い、最先端設備によるEV部品生産拠点の創出で230人の新規雇用を生み出す見通しです 。

https://www.hungarianconservative.com/articles/current/german-zf-chassis-automobile-investment-debrecen-plant/

  • メルセデス・ベンツ: メルセデス・ベンツは2026年第2四半期からドイツ本国(ラシュタット工場)で生産していた小型車Aクラスの組立をハンガリーのケチケメート工場に移管すると発表しました 。柔軟な生産ネットワークを活かした再配置であり、人件費の低いハンガリー拠点へ生産を振り向けることで新モデル投入スペースを本国に確保する狙いです 。これによりハンガリーの役割が一段と拡大します。

https://www.reuters.com/business/mercedes-move-a-class-production-germany-hungary-2026-01-06

  • ドイツラインメタル: ドイツの軍需・自動車大手ラインメタル社は2024年から建設していたハイブリッド工場(軍需+民需)を南部セゲドで完成させ、2025年末に稼働を開始しました 。投資額6,300万ユーロ規模で、まず電動モビリティ向け部品の組立ラインが稼働中です 。将来的に従業員300名規模まで拡張し、ハンガリーをドイツ国外の「ホーム市場」と位置づけて高性能製品を生産していく計画です 。

https://thedefensepost.com/2025/12/29/rheinmetall-hungary-plant

  • 中国BYD:中国のBYDはハンガリー南部セゲドでEV組立工場建設を進めており、2025年12月には生産ライン機器が到着して試運転が開始目前となりました。BYDのセゲド工場は初年度数万台規模で2026年に本格稼働予定であり、将来的な年産能力は30万台に達します。

https://www.hungarianconservative.com/articles/current/byd-production-line-equipment-hungary-china/

  • 中国CATL:中国CATLによるデブレツェンの大規模電池工場(投資額約73億ユーロ)は2026年初頭の量産開始を見込んでいる。

https://www.reuters.com/business/autos-transportation/chinese-battery-maker-catl-expects-hungarian-production-start-by-early-2026-2025-09-07

  • ユニリーバ:英蘭ユニリーバはハンガリーのニールバートルに約300億フォリント(約7,875万ユーロ)を投じてデオドラント(制汗剤)工場を新設中です。同施設は年間1.5億本のエアロゾル製品を東欧向けに生産する計画で、2026年夏の試運転開始に向け建設が進み、ハンガリー政府も約39億フォリント(約1,024万ユーロ)の補助金を供与しました。

https://www.hpcmagmea.com/2025/10/13/unilever-invests-usd-89m-in-new-production-facility-in-hungary/

ポーランド:

  • メルセデス・ベンツ: メルセデス・ベンツはヤヴォル(Jawor)工場で約3億6,000万ユーロの投資を行い、e-Sprinter 電気商用車の生産ラインを2026年から開始すると発表しました。この移管により 300 人程度の新規雇用創出が予定され、同工場は欧州の電動商用車ネットワークにおける重要拠点となります。

https://trans.info/en/mercedes-relocates-422538

  • スペインWindar社: 再生エネルギー分野でも投資が進んでいます。スペインのWindar社はポーランド南部レグニツァに5,000万ユーロを投じて陸上風力タービン用タワー工場を建設すると1月に発表しました 。敷地面積7万㎡超の新工場は2026年末稼働予定で、年間200基(約1GW分)のタワー生産能力を持ち、中央欧州(主にポーランド・ドイツ市場)向け供給拠点となります。

https://renewablesnow.com/news/wind-tower-maker-windar-to-invest-eur-50m-in-new-polish-factory-1288431

  • 仏エランコ社: 安全保障環境の変化を背景に、ポーランドでは弾薬や軍需製造への投資も活発です。政府は約24億ズウォティ(約5億ユーロ超)を投じて155mm砲弾など弾薬製造工場を国内に3か所新設する計画で、仏エランコ社(Eurenco)と国営PGZ社が提携し推進しています 。これは欧州全体でも進む国防力強化の一環であり、製造業の新たな分野として注目されています。

https://www.reuters.com/business/french-eurenco-partners-with-poland-support-domestic-shell-production-2025-10-22

  • ユニリーバ:ユニリーバは2025年12月、ポーランド西部ポズナニの食品工場に約1億ズウォティ(約2,380万ユーロ)を投じ、大規模な自動倉庫や出荷棟の新設を開始しました 。このプロジェクトでは敷地の25%以上を再開発し、9,600パレット収容の自動高層倉庫や効率的な積み降ろし設備を導入しており、2027年までの段階的完成を予定しています 。食品大手による投資はサプライチェーン強化と需要増対応が目的で、ポーランド人材の技能や物流網への信頼を示すものです。

https://millingmea.com/unilever-to-invest-in-food-production-facility-in-poland/

  • 韓国LG:ポーランドは欧州最大級の車載電池生産国でもあり、韓国LGエナジーソリューション(LGES)のヴロツワフ近郊工場ではエネルギー貯蔵システム(ESS)向け電池の新ラインを2025年末に立ち上げました。LGESポーランド拠点は既に年間100万台分のEVバッテリーを生産する欧州最大の電池工場ですが、今回ESS分野に進出し、大容量蓄電池(出力263MW・容量981MWh)プロジェクト向けの製品を国営電力会社PGEに供給します。併せて円筒型セルやLFP(リン酸鉄リチウム)セルの生産ライン新設も計画されており、先端電池技術の一大集積地としてポーランド拠点の戦略的重要性が一段と増しています。これら電池分野への継続投資は、欧州のエネルギー転換ニーズに応えるとともに、国内サプライチェーン強化やリサイクル計画(2026年着工・2027年稼働予定の仏合弁リサイクル工場など)にも繋がっています。

https://successful-investing-in-poland.com/lg-energy-solution-expands-its-operations-in-wroclaw-investment-in-energy-storage-facilities/

チェコ:

  • 米オンセミ:アメリカのオンセミ(onsemi)は2025年11月、チェコ東部ロズノフにおける次世代半導体工場建設計画に対し、欧州委員会が4.5億ユーロの補助金支給を承認したと発表しました 。オンセミは計16.4億ユーロ(約2,000億円)を投じてシリコンカーバイド(SiC)など高性能パワー半導体の一貫生産拠点を新設する予定で、電気自動車や再生エネルギー設備、AIデータセンター向けの高効率チップを欧州で初めて本格量産する計画です 。この工場は既存の結晶・チップ生産施設に隣接して建てられ、革新的プロセスで現在欧州にない製品を供給する見込みで、欧州の半導体供給網強靭化にも資する戦略案件と位置付けられています。

https://czechinvest.gov.cz/en/Homepage/Novinky/Listopad-2025-(1)/European-Commission-approves-Czech-state-aid-for-s

  • 中国Gold Cup Electric:中国の電気機器メーカーGold Cup Electricは2025年12月、チェコ西部プラナに欧州初の製造工場を設立すると発表しました 。投資額は20億コルナ(約8,231万ユーロ)超で、旧食品工場施設を変電設備用磁気導体(連続積層導体や紙・エナメル絶縁導体)の最先端生産拠点に転換します。Gold Cup社は変圧器や電動モーター、新エネルギー設備向け導体で中国トップクラスのメーカーで、欧州ではSiemensや日立エナジー、GEなどが顧客です。チェコ新工場は2026年稼働開始予定で、欧州初の製品カテゴリ参入となることから、「欧州の需要地近くで生産する動きの一例」としてチェコ投資庁も歓迎しています。

https://czechinvest.gov.cz/en/Homepage/News/December-2025/Chinese-company-Gold-Cup-begins-European-expansion,-will-establish-a-magnetic-conductor-factory-in-C

スロバキア:

  • 中国Gotion High-Tech社:中国・Gotion High-Tech社は2025年10月下旬、スロバキア西部シュラニィ(Šurany)で同国初のEV用バッテリー「ギガファクトリー」建設に着工しました。敷地面積65ヘクタールに及ぶ大規模工場で、初期計画では年産20GWhの電池セル生産能力を備え、2026年に試運転、2027年に本格稼働を目指します。第1期だけで約1,300人の雇用創出が見込まれ、大部分の製品は欧州域内の次世代EVメーカーへ供給される予定です。Gotion社は同工場を欧州展開の要と位置付けており、「メイド・イン・スロバキア」の電池を地域産業発展の象徴にする抱負を述べています。スロバキアは自動車生産大国ですが電池生産はこれまで無く、この投資は中央欧州へのサプライチェーン集積と産業高度化を促す画期的事例となっています。

https://autonews.gasgoo.com/articles/news/gotion-high-tech-launches-slovakias-first-battery-gigafactory-70039650

欧州その他:

  • 米国イーライリリー社: 米国イーライリリー社は2025年末、オランダのライデン近郊に約30億ドル(約27億ユーロ)を投じて最先端医薬品の製造施設を新設すると発表しました 。糖尿病・肥満治療薬などの経口薬生産を担う工場で、500人規模の高度な雇用を創出する計画です。

https://www.pharmaceuticalcommerce.com/view/lilly-reveals-plan-3-billion-manufacturing-facility-netherlands