ハンガリーに進出する韓国製造業企業の最新動向

韓国の製造業各社がハンガリーで急速に存在感を高めています。サムスンSDIやSKオンを中心にEVバッテリー関連の投資が拡大し、ハンガリーは欧州における電動車サプライチェーンの中核拠点となりつつあります。さらに、ハンコックやクムホによるタイヤ生産拡張、Hanon SystemsやLG Magnaによる自動車部品製造、CJ第一製糖による食品工場建設など、産業の裾野は広がりを見せています。政府の積極的な投資支援と欧州市場の需要拡大を背景に、韓国企業のプレゼンスは今後も一層強化される見通しです。

EVバッテリー産業:サムスンSDIとSKオンを中心に

韓国勢はハンガリーを欧州EVバッテリー生産の一大拠点と位置付け、積極的な投資を続けています。サムスンSDIはブダペスト近郊のゴド(Göd)に大規模な車載電池工場を運営中です。2017年から段階的に整備された同工場は累計投資額が2兆ウォン(約13億ユーロ)を超え 、現在の年間生産能力は約40GWhに達します 。これは中型EV約60万台分の電池セルに相当し、欧州向け電池供給拠点として同社にとって最重要施設となっています 。2025年には現行ラインの近代化と増設を進め、新たにヒョンデ・起亜(Hyundai/Kia)向けの高性能プリズマティック型電池セル生産にも乗り出す計画です 。サムスンSDIは2025年5月に約1.65兆ウォン(約10億5,000万ユーロ)の増資を実施し 、調達資金の一部(3,236億ウォン)をハンガリー工場の設備刷新・拡張に投入して第一工場のスタック型電池への改造と第二工場の増強を急いでおり 、2026年までに生産能力を倍増(年間60GWh規模)させる見通しです。また、ヒョンデ・起亜とは2026年から2032年の長期供給契約を結び、今後7年間で約50万台分の最新型電池セル(第6世代NCA系スタック型セル)を供給する計画で 、欧州EV市場の需要拡大に対応して供給体制を強化しています。

一方、SKオン(SK On)もハンガリーで急速に存在感を高めています。SKオンは北西部コマーロム(Komárom)に第1・第2工場を開設し、2020年からEV・ハイブリッド車用バッテリー生産を開始しました。これらコマーロム工場の総生産能力は当初年間7.5GWh規模でしたが、その後の拡張により約16GWh前後まで増強されたとみられます。また2021年には第3工場となる大型投資を発表し、中部イヴァンチャ(Iváncsa)で新工場建設に着手しました 。イヴァンチャ工場は約2,724億円(推定)を投じ、敷地面積70万㎡、年間30GWhもの生産能力を備える巨大拠点となり、建設開始から約3年を経た2024年後半に商業稼働を開始しました 。最先端の自動化設備により稼働開始3か月で生産良品率が90%超に達する順調な立ち上がりを見せており 、通常6か月かかる立ち上げ期間を半減する成果を収めています。30GWhという容量は航続400km級EV約43万台分のバッテリー容量に相当し、これによりSKオンの欧州合計生産能力は47.5GWhへ大幅増強されました 。イヴァンチャ市では工場前の道路が「SK út(SKロード)」と命名されるなど、地域を代表する企業として歓迎されています 。

加えて、韓国メーカー各社はバッテリー材料分野でもハンガリー進出を進め、現地のサプライチェーンを構築しています。インジコントロールズ(Inzi Controls)は2019年にコマーロムで欧州初の工場建設を決定し、約4,500万ユーロを投じてEV用バッテリーモジュール生産を開始しました。また韓国ロッテグループ傘下のロッテアルミニウムは西部タタバニャにアルミ箔工場を新設し、2021年6月から車載電池用のアルミニウム箔(アノード集電体)量産を開始しています。投資額は約1億3,300万ユーロで、新規雇用107名を創出しました。さらに韓国Solus Advanced Materials(旧斗山グループ)はタタバニャに欧州唯一の電解銅箔工場を構え、2019年に着工した第1工場に続き、第2工場も2023年に稼働を開始しました。両工場合計で年産2万トン超の高品質な電池用銅箔を供給しており、欧州各地のセルメーカーにとって重要な供給源です(同社はCATLやサムスンSDIへの供給契約も獲得)。韓国LG化学も日本の東レと折半出資でセパレーター(絶縁膜)工場の合弁会社「LG Toray Hungary Battery Separator」を2022年にニュルゲシューニファル(Nyergesújfalu)市に設立し、車載電池用セパレーターフィルムの現地量産を開始しました。さらに正極材料分野では、韓国EcoPro BMが2023年4月にデブレツェンで欧州初となる大規模正極材工場の起工式を行っています。当初投資額は約2億9,000万ドルとされ 、2025年の完成時には年産10万8,000トン(EV約140万台分)の正極材を生産する計画です 。このように韓国勢は電極材料から電池部品・モジュール、セル生産まで一貫したバッテリー産業クラスターをハンガリーで築いており、欧州自動車メーカー各社への安定供給体制を整えています。

タイヤ産業:ハンコックとクムホの戦略

ハンガリーでは韓国のタイヤメーカーも存在感を示しています。**ハンコックタイヤ(Hankook Tire)**は、ブダペスト南方のドゥナウーイヴァーロシュ近郊(ラーツァルマシュ市)に大規模工場を構え、2007年から生産を続ける欧州拠点です。同工場は欧州市場向けの乗用車用タイヤを中心に年間約1,700万本を製造しており、従業員は約3,000人規模に達しています。近年ハンコックは商用車用タイヤの生産能力拡大に向けた追加投資を決定しました。2025年現在、総額約5億4,000万ユーロ(約8,176億ウォン)を投じた大規模拡張工事に着手しており 、2027年の完工を目指しています。同プロジェクトでは大型トラック・バス用タイヤを年間最大80万本生産できる最新ラインを増設し、新規雇用約450人を創出する予定です 。元々計画していた年産55万本規模から拡充された形で、完工後は欧州市場の多様な需要に一層柔軟に対応できるようになる見込みです 。ハンコックにとってハンガリー工場は欧州攻略の前進基地であり、乗用車タイヤに加えて商用タイヤも現地生産とすることで物流コスト削減と需給対応力強化を図っています。

また、韓国第2位のタイヤメーカーである**クムホタイヤ(Kumho Tire)**も、欧州市場での販売拡大を背景に初の欧州工場建設計画に踏み切りました。クムホは2027年までに1兆ウォン(約750億円)超を投じて欧州に新工場を建設する方針を表明しています 。新工場は年間1,200万本のタイヤ生産能力を持ち、EV用高性能タイヤ(Ennovラインなど)を中心に製造する戦略です 。具体的な立地は最終決定段階にありますが、ルーマニアやセルビア、ポルトガル、トルコなど複数の候補国を検討中で、2024年末までに各国政府の補助金・税優遇条件を比較して決定する見通しとされています 。ハンガリー政府も有力な誘致先として交渉を進めており、2023年にはシイヤールト外務貿易大臣がクムホのハンガリー進出計画について言及しました。しかし、本国の工場再編問題などにより欧州新工場計画はやや停滞しているとも報じられ 、最終的なスケジュールは流動的です。実現すればハンコックに次ぐ韓国タイヤメーカーのハンガリー生産拠点となり、国内タイヤ産業クラスターが一層拡充される見通しです。欧州で需要が拡大する高性能タイヤを現地生産することで、クムホは物流費削減と供給リードタイム短縮による競争力強化を狙っています。

自動車部品産業:Hanon SystemsやLG Magnaの動き

完成車メーカー(現代自・起亜)はハンガリーに工場を持ちませんが、それを補完する自動車部品メーカー各社が韓国から多数進出しています。中でも、自動車の空調・熱管理部品大手**Hanon Systems(ハノンシステムズ)**はハンガリーで長い歴史を有します。同社は1990年代からハンガリーに生産拠点を置き、現在では西部セケシュフェヘールヴァール(Székesfehérvár)に大規模工場を、北部レーツァーグ(Rétság)と南部ペーチ(Pécs)にも生産施設を構えています。セケシュフェヘールヴァール工場は30年以上にわたり世界大手自動車メーカー向けにコンプレッサーや車載クーリングシステムを供給してきた欧州中核拠点です。近年はEV化に伴う冷却・熱管理需要の増加に対応すべく、2021年にペーチで新工場(流体管理製品)を開設し、レーツァーグ既存工場でもアルミダイカスト能力増強の拡張投資を実施しました。ペーチ新工場(敷地面積約22,000㎡)ではエアコン配管や冷媒チューブの成形・溶接・組立ラインを備え、300人超を雇用しています。レーツァーグでは4,500㎡の建屋拡張によりコンプレッサー用アルミ部品の鋳造ラインを増設し、こちらも150名以上が勤務しています。ハノンはこれらの設備投資を通じて欧州での生産能力を強化し、電動化が進む自動車業界の需要に応えています。「欧州の重要ハブであるハンガリーで拠点拡充することで、脱炭素時代の技術革新に貢献しつつ地域社会とも調和して発展していきたい」と同社CEOも述べています。

韓国LGエレクトロニクスとカナダMagnaの合弁によるLGマグナ・イーパワートレインも、ハンガリーに初の欧州生産拠点を設ける計画です。2023年9月、独ミュンヘンのモーターショー会場(IAA Mobility 2023)でLGマグナ社は北東部ミシュコルツ(Miskolc)市にEV駆動部品工場を新設すると発表しました 。欧州市場で拡大するEV需要に迅速対応する戦略拠点で、2025年までに延べ床面積26,000㎡の最新工場を建設する計画です。まず電気自動車の駆動モーター(モーターアクスル)製造から稼働を開始し、将来的にインバータやオンボードチャージャーなどパワートレイン主要部品の生産も視野に入れています 。投資額は5,160万ユーロ規模で、新規雇用約200人を予定しています 。LGマグナは既に韓国(仁川)・中国(南京)・メキシコ(ラモス)に生産拠点を持ちますが、欧州ではハンガリー工場が初となります。欧州の主要自動車メーカー工場が集積するハンガリー北東部に立地することで、顧客アクセスの向上やMagnaとの協業メリットを最大化できるとしています。同社は「欧州生産拠点の設立によりグローバル市場攻略を一段と加速させる」と表明しており、2025年以降のEVパワートレイン需要拡大に備えています。

この他にも、韓国の電子部品メーカーブムチュン(Bumchun)は2019年に北部シャルゴータルヤーン(Salgótarján)市に工場を開設し、車載用金属部品やバッテリー部品を製造しています。2024年には約5,630万ユーロを投じた増設プロジェクトを発表し、新たに4ラインの生産設備を増強して400人の雇用創出を図る計画です 。また韓国のワイヤーハーネス大手ユラコーポレーションもハンガリーに複数の製造拠点を持ち、自動車向け電装ハーネスを欧州OEM各社に供給しています(同社は1990年代より中東欧各国に進出)。これら多数の韓国系部品メーカーの存在により、ハンガリーは自動車産業クラスターにおける韓国勢の重要拠点となっており、欧州ビジネスにおける地理的利点と優遇政策を活かしてさらなる投資拡大が期待されています。

電子・電機産業:サムスン電子のテレビ工場

韓国のエレクトロニクス企業による伝統的な製造拠点も、ハンガリー経済に根付いています。代表例がサムスン電子のテレビ生産工場で、首都圏から東に約70kmのヤスフェンシュルー(Jászfényszaru)市に所在します。同工場は1989年に稼働を開始し、中東欧における韓国製造業進出の先駆けとなりました。以降30年以上にわたり欧州市場向けのテレビ・ディスプレイ製造を続けており、サムスンの最新型薄型テレビを年間数百万台規模で出荷しています。2013年時点で累計1億台超のテレビを生産した実績があり 、欧州有数のテレビ工場として地域経済に貢献してきました。近年も製品ラインナップの高精細・大型化に対応するため、約4億5,000万ドルの追加投資を行い生産設備の更新や新モデル対応を進めています 。現在は4K・8K対応の大型スマートTVや商業用ディスプレイの組立を行い、欧州各国へ出荷しています。従業員は約2,500~3,000人規模とみられ、周辺には関連する部品サプライヤーも集積しています。サムスン電子ハンガリー法人は長年の操業実績から政府より「戦略的パートナー企業」に認定されており、研究開発プロジェクトにも参画しています。例えばゴドのサムスンSDI電池拠点には5,600万ユーロを投じた先端R&Dセンターも設立され(2023年稼働)、次世代電池技術の開発拠点ともなっています。韓国企業によるこのような現地技術開発拠点化も進み、電子・電機分野でも韓国製造企業がハンガリーの産業発展を支える存在となっています。

その他の軽工業:食品メーカーCJの進出

韓国企業の進出は重工業分野だけでなく、軽工業・食品分野にも広がりを見せています。韓国最大の食品メーカーである**CJ第一製糖(CJ CheilJedang)**は、近年ハンガリーでの生産拠点新設を決定しました。CJグループ傘下のCJ Foodsは冷凍食品(韓国餃子「マンドゥ」や韓国風フライドチキン等)の欧州需要増加に対応するため、ブダペスト南郊のドゥナヴァルシャニー(Dunavarsány)市に中東欧初の食品工場を建設中です 。投資額は約80百万ユーロ(約310億フォリント)に上り、敷地面積14,000㎡の工場兼物流センターを新設します 。2026年後半の稼働開始を目指しており、まず冷凍餃子やチキン加工品などKフード人気商品を生産する計画です 。約200人の新規雇用が創出され、製造に必要な食材の大部分はハンガリー国内の農家やサプライヤーから調達する方針です。政府も数十億フォリント規模の補助金交付で支援しており、CJの進出はハンガリー食品産業の付加価値向上につながると期待されています。CJ側は欧州市場で伸長するアジアン食品需要に迅速対応する戦略拠点として位置づけており、ハンガリー工場を将来的にCJ Foodsの欧州最大の生産ハブに育てる計画です 。

この他にも、ハンガリーには韓国系の中小企業が繊維・雑貨や化学製品分野で進出している例があります。例えば韓国の化粧品OEM企業が現地工場でフェイスマスク製造を行ったり、韓国のアルミ素材メーカーが建材用部材の加工拠点を設ける動きも報じられています。直近では2024年10月、ブダペスト近郊マグロード(Maglód)市に韓国のアルミニウム部品工場の新設計画が浮上し、環境影響などを巡って住民説明会が開かれるなど注目を集めました。計画中の工場は住宅地近くに立地する工業団地内でアルミ部材の切断・加工を行う見込みとされ、地域住民から騒音や交通量増への懸念が示されています。こうした軽工業分野への韓国製造業の進出も徐々に広がりつつあります。


まとめ: 以上のように、ハンガリーには韓国の製造業各社が自動車・電池から電子・食品まで幅広い業種で拠点を築いています。その進出時期は早いものでは1980年代末に遡り、21世紀に入ってからは特に電気自動車革命を追い風に大型投資が相次いでいます。2025年現在、韓国はハンガリーへの外国投資国として第3位の地位を占めており 、累計投資額は数千億フォリント規模、雇用創出数も2万人規模に達するとも報じられています。工場稼働の最新動向として、EV電池関連ではサムスンSDIやSKオンが増産投資・新工場稼働に踏み切り、タイヤ業界ではハンコックが大規模拡張を開始、部品・食品分野でも新規参入が続いています。ハンガリー政府は車両電動化と関連産業クラスター強化を国家戦略と位置づけ、税制優遇や補助金で韓国からの投資を積極誘致しており、韓国企業にとって同国は欧州展開の要衝となっています。今後も両国の経済協力関係は一層深まり、ハンガリーにおける韓国製造企業のプレゼンスはさらに高まっていくことでしょう。

Reference:

https://www.electrive.com/2025/05/27/samsung-sdi-paves-way-for-prismatic-batteries-at-hungary-plant/

https://www.businesskorea.co.kr/news/articleView.html?idxno=243179

https://batteriesnews.com/samsung-sdi-accelerates-expansion-of-hungarian-factory-with-16-tril-won-capital-increase/

https://www.globalconstructionreview.com/korean-company-starts-290m-hungarian-battery-plant

https://www.mk.co.kr/en/business/11254317

https://skinnonews.com/global/archives/19511

https://www.tiretechnologyinternational.com/news/manufacturing-facilities/kumho-to-build-european-tire-plant.html

https://www.koreatimes.co.kr/business/companies/20250818/kumho-tire-feared-to-delay-push-for-european-plant

https://hipa.hu/news/top-e-mobility-market-player-expands-in-e-drive-market-by-setting-up-plant-in-hungary

https://hipa.hu/news/bumchun-expands-its-salgotarjan-plant

https://trademagazin.hu/en/tizenotmillio-samsung-tevet-gyartanak-a-jaszfenyszarui-uzemben

https://hipa.hu/news/cj-foods-chooses-hungary-for-first-central-and-eastern-european-facility