2025年以降、チェコ共和国には海外メーカーによる製造業分野への大規模な投資計画が相次いで発表・実施されています。電気自動車(EV)やバッテリー、半導体といったハイテク産業への投資が目立ち、欧米やアジアの各国企業がチェコ国内で新工場の建設や生産能力の増強を進めています。本記事では、製造投資について、業種や国籍ごとに整理し、チェコが注目される背景や政府の支援策にも触れます。
EV・バッテリー関連の新規投資
近年、欧州の電動化ニーズ拡大を受け、バッテリー分野での投資が活発です。台湾の電池モジュール大手C-TECH United社は2025年8月、欧州初の拠点としてプラハに代表事務所を開設し、翌年にもチェコ国内でリチウムイオン電池モジュールの生産を開始すると発表しました 。将来的には欧州における研究開発センター設立も検討しており、電気自動車向け電池パックや産業用蓄電システム向けバッテリーシステムをチェコから供給する計画です 。同社がチェコを選んだ背景には、チェコ政府の国家クリーンモビリティ行動計画に基づく電動化・電池産業支援策や、欧州市場への地理的優位性がありました 。チェコ投資促進機関の現地支援もあり、チェコ進出を決めたC-TECH社の事例は、クリーンモビリティ分野に対するチェコの戦略的魅力を示しています。
また中国の大手電線メーカーGoldcup Electric社は2025年3月、約7億元(約9,670万ドル)を投じてチェコに電磁ワイヤ(マグネットワイヤ)の新工場を設立する計画を発表しました 。同社は既存施設を買収・改修し、当初は年間8,000トンの電磁ワイヤ生産能力を持つ工場を2025年末から2026年初頭にも稼働させる予定です 。さらに2028年までに年産20,000トンへと能力増強する計画で、欧州の電力網アップグレードやEV市場拡大によるワイヤ需要増に対応する狙いがあります 。この約100億円規模の中国資本投資は、チェコ国内での新エネルギー関連部材の生産拠点確立につながり、地域経済に数百人規模の雇用を生み出すことが期待されています。
ハイテク製造(半導体・電子部品)分野の拡大
米国の半導体メーカー、オンセミ(onsemi)社は2024年6月、チェコ東部のロズノフ・ポド・ラドホシュテム(Rožnov pod Radhoštěm)にある自社工場に最大20億ドルを投じて生産能力を大幅増強する計画を発表しました 。これはチェコ史上最大規模の単一対内投資とされ 、既存拠点を拡張してシリコンカーバイド(SiC)半導体チップの完全な生産体制(ウエハ加工から最終モジュール組立まで)を構築し、自動車や再生可能エネルギー向けの高性能パワーチップ供給を強化する内容です 。生産開始は2027年を見込んでおり、この投資によってチェコから欧州全体に向け電気自動車・再エネ分野の重要部品を供給する体制が整います。チェコ政府も本計画を戦略案件と位置付け、総投資額の最大27.5%を上限とする投資奨励金(国庫補助)を交渉・提供する見通しです 。これはEUのチップ法(Chips Act)の趣旨に沿った支援であり、同国が欧州半導体バリューチェーンにおける地位向上を図る動きといえます。
電子部品分野では、台湾のChing Tai Electric Wire & Cable社(CTi Cable)が2025年1月にチェコ進出を発表した事例も注目されます。同社は高性能ケーブル・コネクタの大手であり、約400万~500万ドルを投じてプラハ近郊クレツァニ(Klecany)の産業団地に新工場を設立し、欧州市場向けの生産を行う計画です 。この投資により50人以上の新規雇用が創出される見込みで、AI(人工知能)、自動運転、航空宇宙、産業オートメーション、医療機器、IoTといった先端分野向けのケーブルや電子部品を現地生産します 。CTi社はチェコに現地法人CTi Europe s.r.o.を設立し、チェコ政府系のCzechInvest(投資・事業開発庁)の支援を受けて進出準備を進めました 。中央ヨーロッパのハブであるチェコから欧州市場への供給力を高め、同社は「欧州市場でキープレーヤーになる」ことを目指しています 。このように、台湾企業による電子部品製造拠点の新設はチェコの高度製造基盤の強さと投資環境への信頼を示すものです。
欧米メーカーの製造拠点強化
欧州企業によるチェコ製造拠点の拡充例としては、スイスのRobatech社(接着剤塗布システムメーカー)が2025年2月、南モラヴィア州ズノイモ市に新工場を開所したケースがあります。Robatech社は木工・包装向けの工業用接着ソリューションで世界的に知られる企業で、チェコ新工場の稼働により欧州市場での供給リードタイム短縮とコスト競争力向上を図る狙いです 。2月21日に開催された開所式典には地元および中央政府の代表者も出席し、同社オーナーは「この施設は成長・顧客近接・持続的イノベーションへのコミットメントだ」と強調しました 。新工場は改装済みの建物に最新設備を導入したもので、既に操業を開始しています 。当面の生産に必要な人員は確保済みですが、今後さらなる生産拡大に備えて現地での部品サプライヤー開拓も進めています 。この案件は規模こそ数千万コルナ程度(推定)ながら、スイス品質と地元生産の融合により柔軟で持続可能な供給を実現する戦略投資となっています 。チェコ政府関係者は「欧州の中心に位置するチェコへの信頼の証」と歓迎しており、地域経済にも新たな雇用と取引機会をもたらしました。
このほか、2025年には欧米各社がチェコ既存工場の増強を発表しています。
- コンチネンタル(ContiTech) ドイツ国内工場の再編に伴い、一部生産をチェコ(ほか中東欧)へ移管すると発表。自動車用樹脂・ゴム系のコンベヤ/ホース等の生産能力をチェコ側で補完・増強する。
- ZF(ZFグループ) カールスバッド州オストロフ・ノース(Ostrov North)の産業団地で5万7,400㎡の新施設の引き渡しを受領。サステナブル設計の新棟をeモビリティ/シャシー関連の製造・ロジスティクス拠点として活用予定(段階的に生産立ち上げ)。また、ZFは2024年にクラシュテレツで“ゼロエミッション工場”を開所済み(2025年にかけ省エネ運用を拡大)。
- GE Aerospace(米) 2025年の欧州投資計画の一環で、チェコ拠点に約540万ユーロを投じ、ターボプロップエンジン部品の生産能力増強(設備更新・建屋改修)を実施。プラハのターボプロップ中核拠点を含むチェコ拠点群で品質・納期の強化を図る。
- サンゴバン(Saint-Gobain)/AGCとの共同プロジェクト テプリツェ県ドゥビー(AGC Barevka工場)で、世界初の低CO₂・次世代炉を用いた平板ガラスの新生産ライン「Volta」を2025年2月に正式稼働。EUイノベーション・ファンド支援。省エネ・低排出の新製品群をチェコから欧州市場へ。
- Toyota:コリーン拠点のBEV生産ライン新設(6.8億ユーロ)とバッテリー組立棟に対し、政府が最大6,400万ユーロを支援(2025年9月発表)。
チェコへの外国直接投資(FDI)は伝統的にドイツとアメリカからが最大であり、2023年も投資案件数ではドイツ・米国企業がトップでした 。このことからも、チェコにとって欧米先進国からの製造投資誘致が引き続き重要であることがうかがえます。
政府の戦略的支援とチェコの競争力
チェコ政府は高度製造技術分野への投資誘致を国家経済戦略の柱に据えており、特に半導体産業、クリーンモビリティ(電動化)、人工知能、先端材料といった分野を優先領域に定めています 。2024年には「経済戦略・チェコトップ10」が策定され、これら先端分野でチェコを世界トップクラスのイノベーション拠点に押し上げるビジョンが示されました。政府系のCzechInvestや各省庁は、有望な海外投資案件に対して用地情報の提供、規制手続の支援、人材ビザの円滑化、補助金・減税措置の案内などワンストップ支援を行っています 。投資インセンティブ制度も強化されており、例えば先述のオンセミ社の半導体投資には総額の四分の一超を公的支援する方向です 。これはドイツやイタリアが巨額の補助金で半導体工場を誘致している状況に対抗し、チェコも果敢に競争に挑む姿勢を示すものです 。
一方で、受け入れ環境の課題にも取り組んでいます。チェコ政府は産業用地(工業団地)の整備促進や、各種許認可プロセスの簡素化・迅速化、そして電力などインフラ供給能力の強化に注力しています 。投資プロジェクトが円滑に立ち上がるよう、送電網の拡充や人材育成支援にも力を入れており、企業側との密接な連携(AfterCare)によって既存投資の再投資・拡張も後押ししています 。
総じて、2025年以降のチェコは「欧州の製造ハブ」としての地位を一段と高めつつあります。海外メーカー各社にとって、チェコの地理的優位(欧州中心)**、**質の高い労働力、産業クラスターの充実、そして政府の積極的誘致策が大きな魅力となっています 。台湾や中国などアジア企業の進出増加に加え、欧米企業も最先端分野の生産をチェコに託すケースが増えています。中央欧州全体で見れば、韓国企業45社・中国企業22社が自動車電池関連の製造拠点を進出・計画中との分析もあり 、チェコもこの東アジア勢の投資を積極的に取り込んでいる状況です。今後も電気自動車や再エネ、半導体をめぐる地政学的なサプライチェーン再編(リショアリング)の流れの中で、チェコへの製造投資は増加が見込まれます。チェコ政府はこうした好機を捉え、海外投資家との協力関係を深化させつつ、自国経済の競争力と雇用創出につながる戦略的投資を一層推進していく構えです。
Reference:
https://www.reuters.com/technology/onsemi-invest-up-2-bln-czech-semiconductor-plant-2024-06-19
https://www.robatech.com/en/newsroom/new-production-site
https://www.investmentmonitor.ai/news/zf-opens-first-zero-emission-plant-czech-republic
https://apnews.com/article/onsemi-investment-czech-chips-9bae60b1397ffa0a3866a241eee8b4d9
https://industryinsider.eu/industry-news/ge-aerospace-to-invest-in-europe/
https://www.agc.com/en/news/detail/1208657_2814.html
https://www.agc-glass.eu/en/news/news/inauguration-revolutionary-volta-flat-glass-production-line
https://www.glassonline.com/agc-and-saint-gobain-inaugurate-volta-flat-glass-production-line/
https://newsroom.toyota.eu/toyota-announces-new-battery-electric-vehicle-to-be-produced-in-europe





