欧州の自動車産業は、電動化・自動運転・デジタル化の流れを背景に、各国で研究開発(R&D)拠点を拡充しています。中でもハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアといった中東欧地域は、優れたエンジニア人材や競争力のあるコスト環境を背景に、欧州大手OEMや主要Tier1サプライヤーが相次いでR&Dセンターを設立してきました。本記事では、各社の中東欧R&D拠点の概要と特徴を整理してご紹介します。
欧州系自動車メーカー(OEM)
- Audi Hungaria(ハンガリー・ジェール) – アウディの生産拠点で、エンジンや電動ドライブユニットの製造に加え車両組立も行っています。研究開発部門として2001年に「テクニカルデベロップメント」部門を設立し、現在約670名の専門技術者を擁し、エンジン・電動駆動システム開発から車両全体の統合・テストまで実施しています。同部門はアウディ本社に次ぐ第3の開発拠点であり、フォルクスワーゲン・グループ全体に向けた開発サービスも提供しています 。
- Škoda Auto(チェコ・ムラダーボレスラフ) – シュコダ本社工場に技術開発部門を擁し、完成車の開発・試作・テストを実施しています。ムラダーボレスラフ市はシュコダの研究開発の中心地であり、新車モデルのデザイン検討から量産立ち上げまで一貫して行われています 。同拠点には試作車ビルドや各種試験設備も整備されており、最新の電動モデルを含むシュコダ車両の開発を支えています 。※シュコダの技術開発センター名は特に公表されていませんが、本社Technical Development部門として機能しています。
(注: メルセデス・ベンツ(ハンガリー・ケチケメート)、ジャガー・ランドローバー(スロバキア・ニトラ)など他の欧州OEM拠点では、生産設備はありますが専用の研究開発部門は公表されていません。そのため本リストでは割愛しています。)
欧州系自動車部品サプライヤー(Tier1)
- Robert Bosch GmbH(独) – ボッシュ・エンジニアリングセンター ブダペスト(ハンガリー・ブダペスト): 世界的テクノロジーサプライヤーであるボッシュはブダペストに大規模な研究開発拠点を構えています。2005年設立の同センターは現在約2,700名を擁する中欧有数のR&D拠点で、自動運転、ADAS、シャシー制御、パワートレイン電動化など幅広い分野の開発・試作・テストを担当しています 。ブダペスト拠点はボッシュ社内で唯一、自動車部門6分野すべてが集約された開発拠点となっており、各種プロトタイプ車両による走行試験も含めてグローバルに貢献しています 。
- Continental AG(独) – コンチネンタルAI開発センター(ハンガリー・ブダペスト): ドイツ大手サプライヤーのコンチネンタルは、ハンガリーに人工知能(AI)開発拠点を設置し、自動運転やADAS向け次世代ソフトウェア開発を行っています。ブダペストのAI開発センターでは100名超のエンジニアがニューラルネットワークを用いた先進運転支援システムのソフト開発に従事しており、ハンガリー国内のコンチネンタル全R&D要員は1,000名以上と年々拡大中です 。同社はハンガリー国内に車両ダイナミクステストコースや計6ヶ所の生産拠点も有し、ソフトからハードまで開発・試験体制を強化しています 。
- Continental Automotive Czech Republic(独) – コンチネンタルR&Dセンター(チェコ・ブランディース・ナド・ラベム): チェコにおけるコンチネンタルの電子部品工場(ブランディース)には独立した研究開発センターが併設されています。ここではカーラジオ、マルチメディアディスプレイ、メータークラスター、空調パネル、テレマティクス制御ユニットなど車載エレクトロニクス製品の開発・試作が行われ、チェコ国内のみならず他国のコンチネンタル拠点向けにも製品開発支援を提供しています 。ショールームも備えた当R&Dセンターでは、試作品の設計検証からグローバル展開する最終製品の改良まで担っています 。
- Valeo(仏) – ヴァレオ研究開発センター(チェコ・プラハ): フランス系サプライヤーのヴァレオはプラハに大規模R&Dセンターを構え、先進運転支援システム(ADAS)と車両用サーマルシステムの開発・検証を実施しています。2002年開設のプラハR&Dセンターは、駐車支援や自動ブレーキ等の運転支援技術の開発・テストにおける中核拠点となっており、近年では電動車向けの高度な熱管理システム(HVAC、ヒーター等)の開発も手掛けています 。約700~900名規模のエンジニアが在籍し、自社専用テストコース(Milovice試験場)で実車テストを行うなど、要求仕様策定から試験までフルプロセスで研究開発を担っています 。
- ZF Friedrichshafen AG(独) – ZFエンジニアリング プルゼニ(チェコ・プルゼニ): ドイツZF社はチェコ西部プルゼニに**開発センター(ZF Engineering Plzeň)**を置き、トランスミッションやシャシー制御を含む広範な製品の研究開発を行っています。約250名規模の同センターには試作工場、治具製作設備、各種試験室(気候試験・耐久試験ベンチなど)を備え、ソフトウェア開発・テストやメカトロニクス部品の設計検証を専門としています 。プルゼニ拠点では3D金属プリンタによる迅速試作も実施しており、試作品製造から性能評価まで一貫して対応できる体制が構築されています 。
- Schaeffler(独) – シェフラー開発センター(スロバキア・キスツェ): 独系メガサプライヤーのシェフラーは、スロバキア北西部キスツェ(Kysuce)の既存工場内に最先端の開発センターを新設しました(2023年開所)。当センターではハイブリッドモジュールや電動アクスルなど電動パワートレイン製品および高度運転支援向けシャシー制御コンポーネントの研究開発を担い、試験設備やラボも増強されています 。現在350名超の開発技術者が勤務しており、2025年までに500名体制へ拡大予定です 。生産工場(電動モーター、軸受、アクチュエータ類の大量生産)と同敷地にある利点を活かし、設計・試作段階から量産フィードバックまで密接に連携した開発が行われています 。
- Knorr-Bremse(独) – ノールブレムゼR&Dセンター(ハンガリー・ケチケメート): 商用車ブレーキシステムで世界首位のノールブレムゼは、ハンガリー法人(Knorr-Bremse Fékrendszerek Kft.)内に研究開発部門を設置しています。ケチケメート拠点では約1000名が勤務し、空気供給ユニット、ハンドブレーキ、ABSバルブ等の製造に加えて、エンジニアが複雑なワークフローでブレーキシステムの開発・テストを担当します 。圧縮空気供給からブレーキ制御、新世代の電子制御ブレーキまで幅広く手掛けており、将来の自動運転トラックに向けた**先行開発(Pre-development)**も行われています 。
- HELLA(独、フォルシアグループ) – ヘラ開発センター(スロバキア・バーノフツェ): ドイツ系照明・電子部品サプライヤーのヘラは、スロバキア西部バーノフツェ・ナド・ベブラボウ(Bánovce nad Bebravou)に自動車リアランプの開発センターを2021年に新設しました。ヘラ・スロバキア・ライティング社の大規模工場(欧州最大級のリアランプ生産拠点)に併設され、欧州各自動車メーカー向けのテールランプの設計・試作を行います 。初期は約35名のデザイナーで開始し、最新の設備を備え2023年までに100名体制に拡充されました 。生産現場との密接な連携により、顧客との仕様検討から設計、試験、量産まで一貫した開発プロセスの効率化が図られています 。
- Brose(独) – ブローゼ開発・デザインセンター(スロバキア・プリエビジャ): 自動車用メカトロニクス部品大手のブローゼは、スロバキア中部プリエビジャに東欧初となる開発拠点を2017年に開設しました 。同センターではパワーウインドウ機構、バックドア駆動ユニット、シート調整装置など車体・内装向けメカトロ部品の設計開発から試作・量産展開支援までを実施しています。開発と生産を一つのサイトに集約することで迅速な知見フィードバックと効率的なコラボレーションを実現しており、当拠点で生まれた特許も複数あります 。2019年には電子部門も増設され、ハード・ソフト一体でドアやシート用ECU、ジェスチャーセンサー等の開発も担っています 。将来的な世界需要に向け、新規メカトロ製品のプロトタイプ開発にも積極的に取り組んでいます 。
- Faurecia(仏、フォルシア) – フォルシアR&Dセンター(ポーランド・グルジェック): フランス系のフォルシア(現フォルビアグループ)は、ポーランドにシート部品開発拠点を設けています。ワルシャワ近郊グルジェック(Grójec)の工場に始まった開発チームは2002年に最初のエンジニアが着任し、以降約20年間にわたり拡充されてきました 。現在では同国内のワウブジフ(Wałbrzych)にも拠点を持ち、シート用スライドレール、シートフレーム、リクライナー機構などの設計開発・プロトタイピング・試験評価を実施しています。ポーランドR&Dチームはフォルシア各国拠点と連携し、コンセプト立案から試作、バリデーション、量産移行まで一貫サポートするグローバルエンジニアリングハブとして機能しています 。
まとめ
今回ご紹介したように、ハンガリー・ポーランド・チェコ・スロバキアの各国には、欧州自動車産業を支える研究開発・試作拠点が数多く立地しています。これらの拠点は、自動運転やADAS、電動パワートレイン、車載エレクトロニクス、照明システム、シート機構といった幅広い分野に対応し、現地の製造拠点やテスト施設と密接に連携しながら、新技術の実用化を加速しています。
中東欧は今後も、自動車メーカーや部品サプライヤーにとって重要な「開発と生産のハブ」として、その存在感を高めていくでしょう。
Reference
https://www.audi-mediacenter.com/en/audi-at-the-hungary-site-gyor-5570/profile-of-location-5571
https://www.boschmediaservice.hu/en/press_release/bosch_driver_assistance_automated_project-293.html
https://siteselection.com/your-rd-hub-in-central-and-eastern-europe/
https://www.valeo.com/en/czech-republic-prague-rd-center
https://www.automotiveworld.com/news-releases/zf-rd-center-pilsen-extended/
https://www.schaeffler.com/en/media/press-releases/press-releases-detail.jsp?id=87922497
https://truck.knorr-bremse.com/en/hu/about-us/knorr_bremse-hungary
https://spectator.sme.sk/business/c/slovak-engineers-will-develop-rear-lights-for-cars





