ハンガリーにおける韓国メーカーの投資動向

ハンガリーは、韓国製造業の欧州進出の拠点として急成長中。SK Onのイヴァーンチャ巨大EVバッテリー工場、EcoPro BMのデブレツェン正極材工場、Solus Advanced Materialsの銅箔増産など、EV・半導体・金属・電子機器分野で大型投資が進行しています。

ハンガリーは電気自動車(EV)バッテリーをはじめとする製造業の一大拠点として注目を集めており、韓国の製造企業も近年大規模な投資を行っています。以下では、韓国企業の主要プロジェクトをを紹介します。

EV用バッテリー産業における投資

ハンガリーは欧州におけるEVバッテリー生産の中心地の一つとなっており、韓国の大手バッテリーメーカー各社が大規模投資を進めています 。主要プロジェクトは次のとおりです:

  • SK On(SKイノベーション)EVバッテリー:韓国SKグループのSK Onは、ハンガリーで3つ目となる大型バッテリー工場をフェイェール県イヴァーンチャ(Iváncsa)に建設しました。投資額は約20億ユーロ規模とされ、ハンガリー史上最大のグリーンフィールド投資案件です 。敷地面積70ヘクタールに及ぶこの新工場は年間30GWhの電池セル生産能力を持ち、約2,500人の雇用を創出します 。建設は2021年後半に開始され、2024年第2四半期に量産稼働を開始しました 。既存のコマーロム工場2拠点(計約17GWh)に加え、イヴァーンチャ工場の稼働によってSK Onの欧州生産能力は47.5GWhに達しています 。
  • Samsung SDI(サムスンSDI)EVバッテリー:サムスンSDIはブダペスト北部のゴッド(Göd)工場に対し、2025年に約10億ユーロを投じた拡張・近代化投資を発表しました 。既存の第1・第2工場(元ブラウン管工場を改装)の総生産能力は年間約40GWhに及び 、BMWやフォルクスワーゲン向けに角型電池セルを製造しています。今回の投資では約3,236億ウォン(約2.4億ユーロ)を直接生産設備に投じ、第一工場のラインを従来の巻回型セルからエネルギー密度の高い積層型セル生産へ転換するとともに、第二工場の増設による追加生産能力の確保を図ります 。これにより、ハンガリー工場は韓国現代自動車・起亜自動車との契約に基づき、2026年より両社欧州EV向けに第6世代(P6)積層型角型セルの供給を開始する計画です 。同セルはニッケル含有率91%のNCA正極とシリコン系負極を特徴とし、契約期間(2026–2032年)に欧州で50万台分の電池を供給する見通しです 。
  • EcoPro BM(エコプロBM)バッテリー正極材:韓国最大手の正極材メーカーであるEcoPro BMは、ハンガリー東部デブレツェンに欧州初の正極材工場を建設中です。投資額は約2,640億フォリント(約8億ユーロ)規模で 、年間108,000トン(EV約135万台分)の正極材料を生産する計画です 。建設は2022年末に開始され、当初は2024年末の操業開始を目指していましたが、顧客の製品認証スケジュールに合わせるため稼働開始時期を2025年Q4から2026年Q1へ延期しています 。このデブレツェン工場はEcoPro BMにとって初の海外生産拠点であり、ハンガリー政府からの補助金交付も予定されています 。稼働開始後は欧州電池市場の拡大に対応し、ハンガリーから各国EVメーカー向けに高ニッケル正極材を供給する見込みです。
  • Bumchun(ブムチュン)バッテリー部品(金属端子):韓国の金属加工・電池部品メーカーであるBumchunは、北東部ノーグラード県シャルゴータルヤーン(Salgótarján)の工場拡張に2,100億フォリント(約5,500万ユーロ)を投資しています 。このプロジェクトによりバッテリー用端子の生産能力を現在の3倍に増強し、400人の追加雇用を創出する計画です 。2024年7月に発表された拡張計画にはハンガリー政府から37.5億フォリントの支援金も含まれており 、地域経済への波及効果が期待されています。Bumchunのシャルゴータルヤーン工場は2019年稼働開始(韓国国外初)以来、欧州の電池メーカーに端子を供給してきましたが、新投資により2025年以降の増産体制が整う見通しです。

この他、韓国の素材大手Lotteグループ傘下のロッテアルミニウムによるTatabánya(タタバーニャ)での電池用アルミ箔工場建設(投資額1億3300万ユーロ、2021年量産開始)や、電解液メーカーSoulbrainのエレクトロライト工場進出などもありました。

半導体分野での投資

ハンガリーの半導体製造分野における韓国企業の進出は、バッテリー産業ほど大規模ではありませんが、部材分野で重要なプロジェクトが進んでいます。代表例として、韓国のプリント基板・半導体基板メーカーであるSimmtech(シムテック)が挙げられます。Simmtechは欧州で初となる半導体用パッケージ基板工場をハンガリーに建設し、2023年より商業生産を開始しました。投資額は約3億ドル規模と報じられ、工場所在地はブダペスト近郊とされています(正式な公表地名は非公開) 。この工場では高密度のABF基板(Ajinomoto Build-up Film基板)を製造し、欧州の自動車・通信機器向け半導体パッケージ市場に供給しています。韓国メーカーがハンガリーで手がける半導体関連プロジェクトは限られますが、同社の進出はハンガリーが高度電子部品の生産拠点としても注目されていることを示しています。なお、現時点で韓国勢による半導体チップ製造拠点(ファブ)の建設計画はなく、ハンガリー政府も欧州連合の半導体製造誘致策との連携を模索している段階です。

鉄鋼・金属材料分野での投資

従来型の製鉄所建設について、韓国企業によるハンガリー投資は確認されていません。しかし、EV産業を支える金属材料分野では大規模な動きがあります。韓国の銅箔メーカーSolus Advanced Materials(旧称: 日進Solus)は、ハンガリーにおいて電池用銅箔の増産投資を加速しています。同社はハンガリーに2つの銅箔工場を稼働させており、2024年10月に2番目の新工場で量産を開始しました 。この新工場の年間生産能力は23,000トンで、既存の第1工場(年産15,000トン)と合わせ欧州で計38,000トンの銅箔供給能力を確保しています 。Solusの銅箔は現在、欧州唯一のEV電池用銅箔生産拠点となっており、ハンガリーから世界の電池メーカーへ供給されています 。さらに同社は第3工場の建設計画も表明しており、ハンガリー国内の総生産能力を将来的に年産100,000トン規模まで引き上げる目標です 。この野心的な拡張により、ハンガリーは欧州EVバッテリー素材サプライチェーンの中核として位置付けられるでしょう 。一方、鉄鋼そのものの分野では、韓国の鉄鋼大手(POSCOや現代製鉄など)の直接投資案件は報じられていませんが、自動車生産向け鋼板・部品供給は韓国系企業も含め周辺国から行われており、今後の動向が注目されます。

電子機器分野での投資

電子機器・電気部門では、韓国企業はハンガリーにおいて家電や車載電装品の生産拠点を運営しています。近年の大型投資は主にEV関連部品に集中していますが、いくつかのプロジェクトを紹介します。

  • LG Magna e-Powertrain自動車用電動パワートレイン(モーター・インバーター等): LGエレクトロニクスとカナダMagna社の合弁であるLG Magna e-Powertrainは、ハンガリー北東部ミシュコルツに欧州初の電動パワートレイン工場を建設中です 。敷地面積は約26,000平方メートルで、総投資額は非公表ながら数億ユーロ規模とみられます。2025年中の建設完了と設備据え付けを予定しており、まずEV用駆動モーターの量産から開始します 。当初は約200人の雇用でスタートし、将来的にインバーターやオンボードチャージャー(OBC)など電動パワートレイン製品のフルラインナップ生産を目指します 。このミシュコルツ工場は2026年初頭に量産稼働し、欧州の複数自動車メーカー向け供給拠点となる見込みです 。
  • Samsung Electronics Hungary家電・AV機器(テレビ等): サムスン電子は1990年代からハンガリーに進出しており、ヤスフェンシュルー(Jászfényszaru)にあるテレビ・モニター組立工場は2023年に操業30周年を迎えました(1993年稼働開始)*1。この工場は欧州市場向けの主要生産拠点として機能しており、現在も最新モデルの大型テレビなどを生産しています。近年、テレビ生産の一部はスロバキアなど他国にも分散されていますが、ハンガリー拠点は引き続きサムスンの欧州家電供給網の一角を担っています。2025年時点では当分野で新規の大型増設計画は発表されていないものの、既存設備の効率化・高度化投資は継続的に行われています。また同社はブダペスト近郊のゴッドに56百万ユーロ規模の研究開発センターを新設(2023年稼働)し、電池製造プロセス改良などハンガリーでのR&D投資も拡大しています 。

家電製品分野での動向

家電(白物・小型電気製品)の分野において、韓国企業のハンガリー投資は限定的です。大型の新規進出は見られないものの、電子機器分野と同様に既存拠点での生産が続いています。例えば、LGエレクトロニクスは欧州向け家電生産を主にポーランドなどで展開しており、ハンガリー国内に主要工場は持っていません。しかし韓国系サプライヤーでは、洗濯機や冷蔵庫用部品を供給する中小企業がハンガリーに進出しているケースがあります。また、韓国最大手の食品メーカーCJ第一製糖が2025年にハンガリーで加工食品工場(ドゥナヴァーラシュニー地区)を建設開始するなど 、家電以外の消費財分野でも韓国企業の動きが散見されますが、家電製品そのものの製造拠点としてはハンガリーより周辺国の方が選好されている状況です。総じて家電分野では目立った新規プロジェクトは2025年以降確認されていないものの、ハンガリー政府は高度製造業全般の誘致を進めており、家電メーカーへの支援策も整備されています。今後、欧州サプライチェーン戦略の変化次第では、韓国の家電企業がハンガリーに生産拠点を設ける可能性も否定できません。


以上、EVバッテリー、半導体、鉄鋼(素材)、電子機器、家電という各セクターでの韓国製造企業の最新投資事例を概観しました。ハンガリー全土にわたって進むこれらプロジェクトは、数千億フォリント規模の投資と雇用創出をもたらしつつあります。とりわけEVバッテリー関連の集積が顕著であり、ハンガリーは「東洋と西洋の出会いの場」として韓国を含む東アジア企業と西欧自動車メーカーの協業拠点となっています 。プロフェッショナルな視点で見ると、ハンガリーにおける韓国メーカーの進出はサプライチェーンの現地化・最適化に沿ったものであり、欧州の需要動向や政策支援を睨みつつ今後も拡大が続くことが予想されます。

参考リンク:

https://skinnonews.com/global/archives/5994

Hungarian Investment Promotion Agency SK Innovation: the largest greenfield FDI project ever to st…

https://battery-news.de/en/2025/06/03/samsung-sdi-invests-in-renovation-and-expansion-of-its-hungary-plant/

https://www.electrive.com/2025/05/27/samsung-sdi-paves-way-for-prismatic-batteries-at-hungary-plant/

https://timesofindia.indiatimes.com/auto/news/south-koreas-ecopro-bm-to-invest-in-810-million-cathode-plant-in-hungary/articleshow/88179517.cms

https://thelec.net/news/articleView.html?idxno=5252

https://dailynewshungary.com/south-korean-bumchun-investment-hungary/

https://www.chemanalyst.com/NewsAndDeals/NewsDetails/south-korea-solus-begins-mass-production-of-copper-foil-in-hungary-31108

https://www.green-forum.eu/industry/20230911/lg-magna-to-build-first-european-ev-parts-plant-in-miskolc-559

https://ceenergynews.com/renewables/samsung-sdi-rd-base-hungary

https://www.kedglobal.com/korean-food/newsView/ked202411210006